脱北者とブローカーの間の、韓国入国を担保にした契約が無効という裁判所の判決が出たことにより、脱北者の入国に多くの問題が発生すると予想される。
8日、ソウル西部地方法院民事1部(キム・コンス副長判事)は、ブローカーのホン某氏が脱北者のA(45.女)氏を相手に行った貸与金請求訴訟抗訴審で、“窮迫、軽率または無経験を利用して弱者の沫??セる行為であり、A氏とホン氏の間の約定は不公正法律行為にあたり無効”という判決を下した。
これに先だちホン某氏は、“入国費用として500万ウォンを支払うという約定を履行するように”と脱北者のA氏が中国で結んだ契約に対して、貸与金の請求訴訟を行い、1審で勝訴した。しかし脱北者のA氏が抗訴し、今回裁判所が1審の判決を覆し、脱北者A氏の側についた。
こうしたブローカー−在中国脱北者間の見えない葛藤はかなり前からあった。また、中国に滞留した脱北者とブローカーの間で入国斡旋を担保として締結した‘契約書’は、’不公正法律行為’で無効という主張も出ていた。
今回の判決は民法第104条”当事者の窮迫、軽率または無経験によって著しく公正を失った法律行為は無効にする”という条項によって、無効として処理された。法的な根拠は十分にある。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面しかし、脱北ブローカーの行為自体が’相手の窮迫、無経験を悪用して沫??セる行為’としてのみみなされるのかという問題は相変らず残っている。
‘ブローカー’の中でも高い価格を策定して、お金をとる’悪徳ブローカー’がいる一方、実際に少しの利益だけ得て脱北者らを救援するために奔走する人もいる。彼らはお金を得ようとするブローカーではなく、実際には’脱北コンパニオン’とみなせる。お金が目的ではなく、脱北を助けることが目的の人々だ。彼らの一部は北朝鮮からの脱出−入国過程に入って行く実費も、まだ受けとることができずに、自費で行っている場合もある。
このため、今回の判決が様々な問題点を露出させる可能性がある。まず脱北者らが韓国に無事に入国した後、’契約書’の全面無効を主張する可能性がある。このようになれば、ブローカーが脱北者を入国させる際に使用した実際の費用を回収するのは困難だ。またこれはブローカーたちの活動力を落とし、脱北者の入国の可能性がそれだけ減ることにもつながる。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面ブローカーの活動困難に
問題の論点は、ブローカーが脱北者の’窮迫と軽率さを悪用した罪’に属するのかということだ。
現在、中国などの第3国を放浪している脱北者らの入国は、大部分がブローカーたちによって行われている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面情報にうとい脱北者らは、自ら韓国政府の保護区域内に入ったり、第3国から脱出するのが困難だ。彼らは保護区域内に入るまで、誰の保護も受けることができない。彼らを導く仕事を多くの場合、ブローカーたちが行っているのだ。
もし政府の要員が脱北者を保護区域内に導くことができたら、ブローカーも必要ないだろう。そうした点から、ブローカーが政府がすべき仕事を代行しているという側面がある。最近政府が行っている仕事は、脱北者が中国国内の韓国公館や第3国の海外公官、宗教団体の保護区域の中に進入した後、彼らの入国を処理することだ。
中国と海外の脱北者は、大部分がお金もなく、韓国入国に対する意欲を出すことができないでいる。このため、入国後に受ける定着支援金を担保にして、ブローカーに北朝鮮脱出−入国の費用を立て替えてもらう’契約書’に判子を押して入って来るのが実情だ。
仁川に居住しているブローカーのハン・ジョンス(仮名)氏は、“ブローカーたちも’契約書’一つを担保にして、無一文である脱北者一人を連れて来るのに、多くの費用がかかるのみならず、危険の負担も大きい”と打ち明ける。
ハン氏は”延吉からタイまで脱北者一人当たり宿泊費用(中国人民元1千元)と安全費用(5百元)、交通費用(1千元)、国境通過費用(5千元)、現地ブローカー利用費(3千元)を出費すれば、実際の費用は人民元1万元程度必要だ”と言い、”更にバンコクまでの安全ルート確保のために私が使った旅行費用まで合算して、一人当たり韓国の貨幣で200万ウォン以上必要だ”と語った。
ハン氏は”このお金を私がまず銀行から借りて始めることになる。貸し出し利子が高いから、当然’契約書’は300万ウォンずつかかるタイ行きの場合、400〜500万ウォンで作成することになる。しかし、2005年から初期定着金が300万ウォンに減り、500万ウォンの’契約書’を作成したところで、’契約書’の半分ももらえない場合が多い”と語った。
‘契約書’の金額が実際の費用より高い、また他の理由としてハン氏は、”脱北者が中国では我々の条件に応じても、入国した後、値段を下げようとするため、まず高く策定する場合もある”と語った。
後でもらう定着支援金を担保とし、無一文の脱北者と契約
京畿道ブンダンに居住する脱北ブローカー、キム・ヒョンジュン(仮名)氏は、”契約書は入国した後にお金を返すという一種の’担保書’だ。無一文である脱北者を担保もなしに韓国に入国させる人がどこにいるか”と主張した。
キム氏は”裁判所が’契約書’を無効として処理すれば、中国国内の脱北者を救援することがこれから難しくなる”と付け加えた。
釜山に居住するブローカー、ヤン・スジン(仮名)氏も、”モンゴルまでの実費は1人当り人民元1万元(韓国の貨幣125万ウォン)ほど必要。しかし、実費もくれずに隠れる脱北者がいて、むしろ損害を受ける場合もある”と打ち明ける。実際 、’契約書’に策定された通りのお金をもらうのはとても難しいという。
ヤン氏は”ハナ院を卒業して全国に散って行く脱北者の行方を探して、靴がすり切れるくらい出かけたこともある”と述べ、”2005年から定着金が減り、実費も引き上げにくく、仕事をやめた”と語った。
ヤン氏は”去年私も’契約書’を持って裁判所に行ったが、裁判所も被告と原告の合意に任せる”と言った。裁判所でもブローカーの支出費用を勘案して、脱北者に”地獄から救って人生を転換させてくれたのだから、実費を返すことは道理”と合意するように措置したことがあるとヤン氏は語った。
政府がやるべきことを代わりに…在中国脱北者に損害も
一方、脱北者も適当な金額の入国費用を支払うことは当たり前だという意見が多い。
ブローカーの助けで入国した脱北者のキム・キョンソク(仮名)氏は、”中国にいた時は1千万ウォンも惜しくなかった。 公安に捕まって北朝鮮に送還されないため、言われた通りに書く。しかし、ハナ院を出て、他の脱北者と比べて、実費だけ払おうと思い直す”と語った。
2006年3月に入国したソウル江西区居住の脱北者、キム某(女)氏も、”ハナ院を出るやいなや、’契約書’を持ってブローカーが尋ねて来た。しかし、初期定着金300万ウォンをすべて与えたらばどうやって暮らしたらよいのか。それで、実費150万ウォンだけ先に返し、今はひと月30万ウォンずつ稼いで返している”と語った。
ブローカーの必要性に対してキム氏は、”私は中国でブローカーのネットワークを作るためにかなり努力した。その人々がいなかったら、韓国行きは夢にも見られなかったこと”と言い、”困難な時に助けてくれるので、良心からお金をきちんと返すことは正しいことだ”と語った。
問題になった今回のホン某氏とA氏の判決の場合、実費も支払われないという。
8日にソウル西部地方法院の民事1部が、民法第104条を適用して契約書は無効という判決を下したことは、’法に従う’という精神には該当するだろう。しかし、北朝鮮の実際と中国の脱北者の困難な生活、そして韓国政府の脱北者に対する無関心などを勘案すれば、ブローカーは北朝鮮の住民の救援というレベルで、非常に必要な存在だ。中国での活動も危険がともなう。
したがって、この問題を法律の条項の文句としてのみ考える場合、結局、損する人は隠れて暮らす中国の脱北者であるという点も考慮されなければならないだろう。