北朝鮮の国営メディアである朝鮮中央通信が20日、金正恩総書記が軍の戦術演習を視察した際に、娘の金ジュエ氏が戦車の操縦席に座った写真を公開した。これにより、同氏が後継者候補として軍事分野に関与していく可能性が一段と現実味を帯びてきた。幼い後継者像を国内外に印象づける演出とみられるが、その一方で安全保障上の重大なリスクを伴うものと言える。
金正恩氏はこれまで弾道ミサイルの発射実験などで自ら前線に立ち、現地で陣頭指揮を執ってきた。米韓が想定する「斬首作戦」の標的となり得る状況にあえて身を置くことで、指導者としての求心力を高める狙いがあったようだ。だが、同様の現場にジュエ氏を同伴させ続けることは、指導者本人だけでなく後継候補の身も危険にさらす行為にほかならない。実際、ジュエ氏の露出のあり方をめぐっては、北朝鮮国内でも一部で違和感や反発が広がっているとされる。伝統的に厳格な序列と秘匿性を重んじてきた体制において、未成年とみられる人物が過度に前面に出ることへの戸惑いは小さくない。
(参考記事:【写真】普通の父娘関係なのか…波紋を呼ぶ金正恩と娘の異様な振る舞い)
対照的なのは中東の事例だ。米国とイスラエルによる攻撃で指導部に打撃を受けた後も、イラン・イスラム共和国体制は機能を維持している。権限が特定の個人に過度に集中せず、一定の制度的分散が働いているためとみられる。
これに対し北朝鮮は、いわゆる「白頭血統」に統治の正統性が大きく依存している。仮にこの血統が途絶すれば体制そのものが揺らぎかねない構造だ。現時点で後継に関わる中核人物は、金正恩氏本人のほか、兄の金正哲氏、妹の金与正党総務部長、そしてジュエ氏の限られた数にとどまるとみられる。
金正恩氏が韓国に対する敵視政策を一段と強める中、軍事の最前線に姿を現し始めたジュエ氏の存在は、象徴的価値を高める一方で、標的としてのリスクも同時に増幅させている。体制の未来を担うとされる人物をあえて「さらす」現在の演出は、北朝鮮の統治構造が抱える脆弱性を逆説的に映し出している。
