北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記が、平安北道の三光畜産農場竣工式で行った演説の中で、これまでの農村振興政策の誤りを率直に認め、「反省の弁」を述べたと日本の主要メディアは伝えた。しかし、その全文を精査すると、自らの政策判断を省みる姿勢は乏しく、失敗の責任を幹部や現場に転嫁する内容が際立っている。
金氏は演説で、過去の農村建設について「口先だけで実行が伴わなかった」「政策の執行性と実現可能性が欠けていた」と厳しく批判。さらに、国家投資の散発性や、農業生産力の強化策が不十分だった点を挙げ、「幹部たちが正確な目標と方法論を持てなかった」と断じた。だが、その失策の背景にある政策決定の最終責任が自らにあるという言及は見当たらない。
北朝鮮では、最高指導者の路線は絶対であり、その失敗は現場や下級幹部の「不忠」「怠慢」として処理される構造が長年続いてきた。
ラジオ・フリー・アジア(RFA)によると、最近では農業や地方建設、軍需工業の各部門で、成果未達を理由にした幹部への処罰や更迭が相次ぎ、地方党委員会や省庁では「次は自分の番か」と不安と恐怖が蔓延しているという。過去には現場幹部が「即決処刑」された例もある。
(参考記事:金正恩が幹部を「即決処刑」、現場で起きた一部始終)
ある北朝鮮内部関係者は「幹部たちは常に失敗のスケープゴートにされる。上の決定に従った結果が悪ければ、責任はすべて下に押し付けられる」と証言する。特に近年は、農村振興や地方発展政策が金正恩政権の「看板政策」とされるだけに、成果を示せない幹部への締め付けは一層強まっている。
実際、三光畜産農場を模範例として全国に拡大する方針が示されたことで、各地の党・行政幹部には短期間での「成果創出」が求められる。だが、慢性的な資材不足、電力難、労働力不足という構造的問題が解消されない中で、達成は容易ではない。結果として、現場では無理な動員や数字の粉飾、過重労働が常態化。RFAによれば、幹部自身も精神的・肉体的に追い詰められているという。
「政策は上から降りてくるが、条件は与えられない。失敗すれば処罰され、成功すればすべて指導者の功績になる」。こうした歪んだ統治構造の下で、幹部たちは文字通り「命を削られながら」体制を支えているのが実態だ。
金正恩氏は演説で「もう言葉だけの時間はない」と強調した。しかし、その言葉が向けられるべき相手は、現場の幹部ではなく、政策決定の中枢に立つ自身ではないのか。責任転嫁を繰り返す限り、北朝鮮の農村改革が実質的な成果を上げることは難しく、幹部たちの犠牲だけが積み重なっていく構図は変わらない。
