今年の1月1日、北朝鮮の金正恩総書記は後継者候補とされる娘のジュエ氏とともに、盛大な新年慶祝公演を鑑賞。このところは米国から特別な圧迫もなく、盤石な権力基盤に陶酔しているようにも見られた。

しかしその陰では、とんでもないことが起こっていた可能性がある。

北朝鮮が故金正日総書記の誕生日(2月16日)を前に、食料が底を突いた「絶糧世帯」を対象とするトウモロコシ配給を検討していることが分かった。年末年始に飢餓による人的被害が報告され、農村と都市の双方で食料枯渇の兆候が広がったことを受け、当局が緊急対応に乗り出したと、独立系メディア「サンドタイムズ(ST)」が今月3日付で報じたのだ。

STが伝えたところによると、北朝鮮当局は今月に入り、都市・農村を問わず絶糧世帯の実態調査を開始した。金正日氏の誕生日に合わせた「名節用の贈り物」を準備するという名目を超え、目前の飢えに直面する世帯を選別する措置だという。

北朝鮮は昨年、穀物生産量を約500万トンと評価し「増産成果」を大々的に宣伝してきた。しかし現場の体感は大きく異なるとの証言が相次いでいる。軍用米や国家配給分が優先された結果、農民に分配される量は減少し、昨年11月に受け取った一年分の食料をわずか2カ月で使い切った世帯もあるとされる。

果たして、そうした想像を絶する苦境にある国民たちの目に、公然と権力に酔いしれる金正恩父娘の姿はどのように映っただろうか。

(参考記事:【写真】金正恩父娘“恋人のような密着シーン”に北朝鮮内部から「おぞましい」との違和感も

特に深刻なのは、すでに「ポリッコゲ」と呼ばれる端境期に入りつつある点だ。前年の収穫分が底をつき、新たな作物の収穫まで数カ月を要する最も脆弱な時期に差しかかっている。かつては市場での購入が命綱だったが、近年は市場機能そのものが弱体化し、食料確保が一段と困難になっているという。

背景としてSTは、市場統制の強化による「人災」の側面を強調する。北朝鮮は2021年の糧政法改正で市場での穀物販売を禁じ、国家の穀物販売所を公式流通ルートとして制度化した。個人間取引への取り締まりが強化され、住民が非常時に頼る最後の逃げ道が塞がれたとの見方だ。

穀物販売所のコメは価格こそ低いものの、供給量も品質も不足し、市場の代替にはなっていないという。さらに建設動員や各種労働動員が重なり、都市住民の現金収入も減少しているとされる。

そもそもこうした悪政は、金正恩氏が目論む世襲後継と無縁ではない。独裁権力をスムーズに継承できるよう、国民の自律性をそいで置こうとしているのだろう。しかし、国民に犠牲を強いながらの権力継承は、やがてジュエ氏の重荷になり得るということを、金正恩氏はどれほど考えているのだろうか。