今年のクリスマスイブである12月24日、北朝鮮で静かな「異変」が起きた。この日は、北朝鮮の「3大英雄」の一人であり、金正日の母、金正恩の祖母にあたる金正淑の誕生日である。
これまでは金日成、金正日と並ぶ祝祭日として位置づけられ、国を挙げた記念行事が行われてきた。本来のクリスマスイブは、隠蔽された金日成の出自や建国神話と重なるため、祝われてこなかった。
ところが今年、労働新聞をはじめとする官営メディアから、金正淑を称える記事は完全に姿を消した。かつて「革命の偉大な母」「忠誠の模範」と強調されてきた表現も見られない。平壌の大城山革命烈士陵での献花報道は2021年以降途絶え、命日である9月22日の追悼記事も消滅した。
この変化は、金正恩が先代の業績を意図的に矮小化してきた流れと重なる。主体年号の使用は中断され、「太陽節」という公式名称も使われなくなった。錦繡山太陽宮殿への参拝頻度も明らかに減っている。
2023年末、金正恩は韓国を統一対象ではない「敵対国家」と位置づける断韓政策を打ち出した。南北を結ぶ道路の一部を爆破し、韓半島北部だけで体制を完結させる意志を明確にした。これは一時的な交渉戦術ではなく、体制存続を賭けた戦略転換だろう。民主化された韓国社会を全体主義で支配できない現実を、金正恩が理解していないはずはない。
統一を理想としてきた金日成・金正日の存在は、もはや足かせとなった。その象徴である金正淑もまた、歴史の表舞台から退かされつつある。そして代わるように実娘の金主愛が浮上する。この動きは、「金正恩王朝」を北部だけで完成させようとする構想の一環として読み解くべきだろう。
