北朝鮮北東部・咸鏡北道吉州郡で23日、地方工業工場の竣工(しゅんこう)式が行われたと、朝鮮労働党機関紙・労働新聞などが24日報じた。同地は北朝鮮が過去6回の核実験を実施した豊渓里(プンゲリ)核実験場を抱える地域で、国際社会では長年、放射能汚染への懸念が指摘されてきた。
韓国の独立系メディア「サンドタイムズ(ST)」は労働新聞の報道を受け、式典に金正恩総書記が姿を見せなかった点に注目している。3日前、同じく地方工業施設の完成式が行われた両江道の三池淵には、妻や娘、妹ら家族を伴って出席していたが、今回は欠席した。三池淵と吉州郡は鉄道で1~2時間の距離にもかかわらずだ。そのかわり吉州郡の式典には「問題児」とされる幹部らが派遣されたとしている。
労働新聞によれば、吉州郡の式典には、党宣伝扇動書記の李日煥(リ・イルファン)、軍総政治局長の鄭京擇(チョン・ギョンテク)、朴正根(パク・ジョングン)内閣副総理兼国家計画委員長らが出席した。
このうち李日煥氏は、汚職や特権的生活、資料隠蔽などの問題で今年初めに「革命化」処分を受け、長らく表舞台から姿を消していた人物で、今月中旬の党中央委員会総会で約11カ月ぶりに復権したばかりだった。
(参考記事:「泣き叫ぶ妻子に村中が…」北朝鮮で最も”残酷な夜”)
また鄭京擇氏は、今年5月に起きた5000トン級駆逐艦「姜健(カンゴン)号」の進水事故をめぐり、大将から上将へと降格処分を受けた。事故当日は金正恩氏も立ち会っており、艦艇が横転する様子が公開され、関係者が拘束されたことも国営メディアを通じて異例の形で報じられた。軍に対する党の統制を担う鄭京擇も、その責任を免れなかったとされる。
今回の竣工式は、金正恩氏が力を入れる「地方工業20×10政策」の成果を誇示する場だ。吉州郡は三池淵から約130キロと、鉄道を使えば1~2時間で到達できる距離にある。それにもかかわらず、金氏は出席せず、過去に不祥事や事故で処分を受けた幹部らを前面に立たせた。
STは、こうした対応の背景について「吉州郡一帯が放射能汚染の懸念を抱える地域であることと無関係ではない」と分析している。核実験場を抱える地域での滞在が、健康面やイメージ面でリスクと判断された可能性があるという。
