北朝鮮がロシア派兵で戦死した兵士を「英雄」として大々的に顕彰し、遺族に破格の優遇措置を約束した一方で、国内での事故や任務中に命を落とした軍人の家族が冷遇されているとして、遺族や住民の間で不満が高まっていると、韓国の独立系メディア・サンドタイムズ(ST)が伝えている。
朝鮮中央テレビはロシア派兵の殉職者を「英雄的殉難」として演出した番組を放映。金正恩総書記も慰労行事に出席し、戦死者の子どもをエリート教育機関である革命学園に入学させることや、追悼碑や平壌の遺族専用住宅街の建設計画を表明した。
韓国の国家情報院は犠牲者数を2000人規模と推定しているが、北側が公表したのは約350人だ。だが、上述した各種の遺族優遇策から、北朝鮮の人々は実際の犠牲者数の規模に気付いており、その多さに衝撃を受けているという。
そして、同時に生じたのが「選別的優遇」に対する怒りだ。国内での訓練中や建設動員中の事故で亡くなった軍人の家族には、形式的な葬儀と米俵一個程度の支給しかなかったという実例が知られているという。
(参考記事:「恐怖に震え自信喪失」北朝鮮のロシア派兵部隊、深刻な実態)
脱北者の「チェ・ソンギュ(仮名)」氏はSTに対し、自身の息子が軍務中に死亡した際、半年後に死亡通知を受け取り、渡されたのはわずかな米と果物だけだったと証言。「人の命がガムと同じ程度の値段なのかか。普通の労働者の子は犬よりも軽んじられるのか」と憤りを露わにした。
住民の反応は複雑だ。政府の「特別扱い」に感動する者もいるが、多くは懐疑的だ。「遺族を一カ所に集めて監視しようという狙いではないか」「結局、平壌に呼び寄せても生活は保障されないのでは」などの声が出ている。地元のある住民は「祭礼や住宅より、地方で商いを続ける方が暮らしには役立つ」と冷めた見方を示したと報じられた。
STにコメントを寄せたある北朝鮮ウォッチャーは、国家的宣伝と実際の補償との乖離が社会的不満を増幅させる可能性を指摘している。遺族への目に見える支援は、体制の忠誠や団結を演出する一方で、差別的待遇が浮き彫りになれば逆効果となりうる。STは、こうした扱いの格差が軍入隊忌避の風潮を一層助長していると結んでいる。
