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北朝鮮の軍人の間で昨年の夏以来、家族へ宛てた手紙形式の「遺書」を書くことが流行していると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じている。

北朝鮮北部・両江道(リャンガンド)の軍関係の情報筋はRFAに対し「兵士たちの『遺書』は親きょうだいに宛てた手紙の形式をとっており、党と首領の命令に命を捧げて忠誠を尽くすという内容だ」としたうえで、「こうした遺書は去年から兵士たちの間で流行し始めたが、実際に親きょうだいに送るわけではない」と説明している。

兵士たちは、こうした遺書を肌身離さず携帯しており、その目的は「(任務の途中で)予期せぬ死を迎えた場合、幹部が見るように仕向けるため」なのだという。

ロシアに派遣されウクライナ軍と戦闘中の北朝鮮兵をめぐっては「敵の捕虜になれば裏切者と見なされ、故郷の家族に危険が及ぶ」との見方が根強い。

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これはつまり、国家が兵士に対し、死ぬまで忠誠を尽くして戦い抜くことを求めており、それをまっとうした者が「愛国的」であると称揚されることを意味している。上述した遺書は、その効果を最大限に高める狙いで書かれているのだ。

具体的にどういうことか、RFAが挙げた実例を見てみよう。

遺書の流行は、夏の大水害で復旧作業に投入された建設部隊「白頭山英雄青年突撃隊」から始まったという。同隊のある中隊政治指導員が生命の危険を伴う難工事に先立ち、家族に宛てた手紙形式の遺書を買いて懐中深くに携帯するよう、隊員らに指示したという。

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そして、この中隊からは実際に、2人の死者が出た。そして、彼らの遺品の中から「党と首領に忠誠を尽くす」とする手紙が見つかるや、それらは速やかに中央に送られ、2人への「金日成青年栄誉賞」が授与されることが決まった。

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そして、彼らの遺されたきょうだいは幹部養成校である金星政治学院と康盤石革命学院に送られた。RFAは言及していないが、これら一連の事実が、体制への忠誠心を呼び起こすための一大プロパガンダに利用されたであろうことは想像に難くない。

つまり、遺書を書いた若者たちは、「どうせ死が避けられないならば」と腹をくくり、遺族のために、一種の「保険」をかけておいたということだ。

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ちなみに、彼らに遺書を書くよう指示した政治指導員は、「隊員を良く導いた」ということで、高位幹部を養成する中央幹部学校への入学が許可されたという。見方によっては、彼の行為は「やらせ」とも思えるが、中央はその点をまったく問題にしなかった。それだけ、プロパガンダの効果が大きかったのだろう。

政治指導員は自身の栄達のために、隊員らに遺書を書かせたのかもしれない。しかしいずれにせよ、彼ひとりの力では犠牲者の発生を防げなかっただろうし、死んだ隊員らの遺族はある程度の「補償」を受けることができた。つまりは若者2人の犠牲の上に、国家と政治指導員、遺族の「ウイン、ウイン、ウイン」が成立したわけだ。

もちろん、それで遺族が満足していると見るべきではなかろう。

水害復旧の難工事が安全に完遂されて国家の事業が成功裏に進捗し、それと関連して政治指導員の業績が評価され、すべての隊員が家族の元に生きて帰るというのが、本来あるべき姿なのだ。