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収穫から間もないのにコメが消えてしまった。

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は、黄海北道(ファンヘブクト)麟山(リンサン)、平安北道(ピョンアンブクト)龍川(リョンチョン)など、各地の糧穀販売所が販売するコメがないとの理由で休業に入ったと、情報筋の話を引用して伝えた。糧穀販売所とは国営の米穀店のことを指す。

北朝鮮は2021年、糧穀販売所を各地に設置した。それまで、協同農場から横流しされたものが市場に流入する形で行われていたコメの供給はを、国が協同農場で以前より高い価格で買い入れて、糧穀販売所で販売する形に変えようとするものだ。

金正恩総書記は、市場に奪われていた食糧供給の主導権を国の手に取り戻すことで、価格を安定させると同時に、党や最高指導者に忠誠を尽くさなければおまんまの食いっぱぐれになるという恐怖心を抱かせることで、統治を円滑にすることを考えていたようだ。

糧穀販売所の相次ぐ休業は、コメの供給不足と見られていたが、実は別のところに原因があったようだ。

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両江道(リャンガンド)の幹部によると、糧穀販売所はそもそも、新米を販売するところではなく、古くなった戦時備蓄食糧を販売するのが目的だった。

(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為

北朝鮮は、自然災害と戦時状況に備え、住民に配給する6カ月分の食糧を各市・郡の「2号倉庫」に、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)後方総局と各軍団、師団は、有事の際に兵士たちに供給する6カ月分の食糧を備蓄している。

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これ以外にも、金正恩氏が職権で使用できる主席ポント(予備物資)食糧があるが、徹底的に秘密にされているため、どれほどの量があるかはわからないとのことだ。

これらすべてを指して「戦時食糧」と呼ぶが、2年毎に入れ替えることになっている。

農業不振により長年、規定通りに入れ替えができなかったが、収穫量が増えた2016年からは規定通りに入れ替えできるようになった。

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古米の処分方法は、地方政府の幹部と言えども知り得ないことだったが、2021年に国会に相当する最高人民会議で、修正された国家糧穀法が採択され、開店休業状態だった糧穀販売所を復活、拡充させ、戦時食糧だった古米を住民に販売するようになったというのが、幹部の説明だ。

(参考記事:北朝鮮の秘密警察、戦争予備物資の保管状態など検閲

ところが昨年7月、「戦時食糧を6カ月分から1年分に増やせ」との指示が金正恩氏から下された。これで2年毎に入れ替える余裕がなくなり、糧穀販売所に供給されるコメが途絶えてしまったのだ。

両江道の糧穀部門の情報筋によると、戦時食糧を増やせとの指示の背景には、ロシアのウクライナ侵略があるとのことだ。金正恩氏は昨年7月の朝鮮労働党中央委員会第8期21回政治局会議で、この指示を自ら下した。

それに基づいて昨秋、元々あった戦時食糧の入れ替えは行わず、昨年収穫された新米を6カ月分備蓄する作業を始めた。それに伴い、糧穀販売所にコメが入荷しなくなった。

(参考記事:野犬に襲われ無残にも…北朝鮮「21歳女性兵士」の悲劇

糧穀販売所は農民から食糧を買い取り、都市住民に販売する権限を持っているが、そううまくはいかない。

「糧穀販売所に安値で食糧を売り渡す人がどこにいるんだ?」(情報筋)

糧穀販売所は、市場より1キロあたり数百ウォン程度安く販売することになっている。安く販売するするためには買取価格を下げるしかないため、農民は国にコメを買い取られまいと、隠してしまうなど、あの手この手を使って抵抗を続ける。

(参考記事:金正恩が決めた「商品価格」が北朝鮮の市場で絶対に守られない理由

糧穀販売所が閉じてしまった今、消費者の足は市場に向かっている。当局が禁止していた市場でのコメの販売を解禁したからだ。それにより、極めて皮肉な状態が起きている。

両江道最大都市の恵山(ヘサン)では、コメ1キロの価格が先月中旬は8500北朝鮮ウォン(約145円)だったのが、今月中旬には8000北朝鮮ウォン(約136円)まで下落した。コメ価格の安定が糧穀販売所設置の一つの目的だったはずだが、それがむしろコメ価格を押し上げていたということになる。

消費者はこんな話をしているとのことだ。

「過去2年間、国家穀物生産計画を超過達成したはずなのに、食糧価格が高騰していた。その理由はようやくわかった」
「食糧難を解決するという糧穀販売所が、むしろ食糧価格を押し上げていた主犯だったことに気づき、虚しい」

糧穀販売所だけがコメ価格高騰の原因ではなく、著しいウォン安で肥料や営農資材、ガソリンなどの輸入価格が高騰したことや、昨年7月に鴨緑江流域で甚大な被害を出した大洪水など、複数の原因が絡み合っている。

北朝鮮は、「国家穀物生産計画を107%超過達成した」としているが、韓国の農村振興庁は、北朝鮮の2024年農業生産量を478万トンと見ており、前年より4万トン、率にして0.8%減り、実質的にはほぼ横ばいだ。いずれにせよ、年間需要の575万トンには届いていない。

なお、北朝鮮では収穫量についての虚偽報告が横行しており、当局の発表は信憑性が低い。

(参考記事:凶作続きの北朝鮮農業、打開策は「ホラ防止法」

さて、このままズルズルと以前の市場で販売する方式に戻っていくのだろうか。それともコメの供給が復活すれば、強権を発動して市場での販売を取り締まり、また国営米屋での販売に一本化するのだろうか。