米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)は11日、7月末の水害で大きな被害を出した北朝鮮・平安北道(ピョンアンブクト)の義州(ウィジュ)郡で、大規模なマンション団地が建設されている状況が民間衛星に捉えられたと報じた。
金正恩総書記は災害対策として「不可逆的な措置を講じろ」と厳命しており、そうした方針に沿ったものと思われる。水害発生からわずか1カ月余りで工事が開始されたのは、北朝鮮お得意の「速度戦」によるものだろう。しかし、防災対策の妥当性評価がおざなりにされているのではないか、との懸念は拭えない。
北朝鮮の速度戦は実質的に「拙速戦」であり、多くの大規模事故をもたらしてきた。そしてそれに加え、北朝鮮で頻発してきたマンションなどの「建物崩壊」事故の原因とも言える場面が、ほかならぬ北朝鮮当局が公開した映像の中に登場している。
(参考記事:【再現ルポ】北朝鮮、橋崩壊で「500人死亡」現場の地獄絵図)韓国の公共放送KBSは今月14日までに、北朝鮮内部で作られた国民向けの防犯教育用映像を入手して公開した。映像は、同国内で多様な犯罪が蔓延していることに対して警鐘を鳴らすものだが、その中に、黄海北道(ファンヘブクト)の沙里院(サリウォン)にある建材店が出てくる。
建材店の中庭や倉庫には鉄筋の類が山積みされているが、これらは建設現場などから横流しされたり盗み出されたりしたものと見られる。そして驚くべきは、建材店の管理者と見られる軍人が、取り締まり班と撮影班に対して「出ていきなさい!こんなやり方は止めなさい!党の上級組織の手続きを踏んでからやるべきでしょう!」語気を強め、追い散らそうとしていることだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面つまり、建築資材の横流しや違法販売は、相当に権力のある朝鮮労働党や軍の地方組織などが黒幕になっている可能性が高いということだ。
デイリーNKジャパンは2016年に脱北した北朝鮮の元兵士から、こうした実態について聞き取ったことがある。この元兵士は、平壌のタワマン街のひとつである「未来科学者通り」の建設に動員された経験があった。
「未来科学者通りは金正恩が自ら旗を振った事業でもあり、当初は安全管理についても関係当局から厳しく指導されていました。しかし、現場に供給されているはずの資材が足りないといったことが、次第に増えました。現場の監督には、その問題を追及する権限がありません。横流しは、もっと上の方(上層部)がからんでいたのでしょう。しかも、どんどん工期が迫ってくる。セメントと砂の混合比率や鉄筋の使用量が、上層階に行くほどいい加減になっていきました。北朝鮮で地震はほとんど起きませんが、いずれ何かの拍子に、建物がぜんぶ崩壊してもおかしくありません」
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実際、平壌では2014年5月、23階建ての新築マンションが崩壊し、約500人が死亡する大惨事が起きている。その後に建てられたタワマンははるかに規模が大きく、崩壊事故が起きたら千人単位の被害者が出ることだろう。
北朝鮮当局が今からでも、タワマンなどの安全性確認を厳しく行うことを願ってやまない。