韓国統一省は27日、脱北者649人の証言に基づき作成した北朝鮮の人権問題に関する報告書を公開した。政府発表の報告書としては、北朝鮮が2020年12月に制定した「反動思想文化排撃法」に従い公開処刑が行われた事例を初めて記載している。
それによると、公開処刑は2022年に行われた。農場で働いていた22歳の若者が韓国の歌を聴いたり、周囲に広めたりしたとして刑を執行されたという。
ただ、そうした状況については、当時から複数のメディアが報じていた。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)は22年8月、平安南道(ピョンアンナムド)の成川(ソンチョン)郡の社会主義愛国青年同盟が、韓国式の言葉遣いやアクセントを真似した男女8人を、工場内の会館での思想闘争会議――つまりは吊し上げの舞台に上げたと伝えている。
8人は、ボーイフレンドを「ナムチン」、ガールフレンドを「ヨチン」と呼ぶ韓国式の言葉を使ったとして自己批判をさせられた上に、群衆から次々と批判の言葉を浴びせかけられた。
またRFAによると、これと同じ時期に平安北道(ピョンアンブクト)の龍川(リョンチョン)郡でも同様の集会が行われ、男性の同僚を「オッパ」と呼んだ女性、ガールフレンドに「チャギヤ」と呼びかけた男性、韓国風のヘアスタイルをしていた女性ら5人が見せしめとして厳しい批判にさらされた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面しかし、「オッパ」は、妹が兄を呼ぶ時に使う、北朝鮮の辞書にも出ている言葉だ。若者の間からは「これのどこが南朝鮮式言葉遣いなのか」と不満の声が上がったという。
もっとも、「オッパ」を女性が他人の年上の男性を呼ぶ時に使えば韓国式になるため、「オラボニ」の方がふさわしいとされた。また、「ナムチン」は「ナムドンム」、「ヨチン」は「ニョドンム」が北朝鮮当局推奨の呼称だ。
こうした動きからは、北朝鮮当局が反動思想文化排撃法の制定後、着実に若者らを締め上げてきたことがわかる。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面そして、冒頭で触れた若者への極刑も、その延長線上で行われていたのだ。
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北朝鮮では金正恩総書記の父である故金正日総書記の時代にも、様々な形で国民への締め付けが行われた。しかしそれと比べても、金正恩氏のやり方は計画的かつ執拗な印象を受ける。米国のトランプ前大統領と会談するなど、かつては自由世界との接近に魅力を感じていたように見える金正恩氏だが、最近はロシアや中国など権威主義体制との結びつきを強めている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面北朝鮮国内ではしばらくの間、若者に対する締め付けが緩むことはないかもしれない。