無償教育制度は、金正恩氏が誇る「社会主義の優越性」の一つだ。幼稚園から大学に至るまで、すべての学校の学費が無料というものだ。特にエリート学生には学業のために無限の機会が与えられることになっているが、これはまったくのタテマエに過ぎない。
初中等教育では教科書、制服などありとあらゆるものが有料で、学生に対しては学校や教師からの金品の要求が絶えない。高等教育も、入試の過程から黒いカネが飛び交い、試験や論文審査などあらゆるプロセスでワイロが求められる。
今年に入ってからも、北朝鮮音楽教育の頂点、金元均(キム・ウォンギュン)名称音楽舞踊総合大学(以下、平壌音大)で「ドル入り花束」が問題になった。
平壌のデイリーNK内部情報筋によると、新年を迎え平壌音大の学生は、教授のもとを訪ね、花束をプレゼントして新年の挨拶をした。この大学では花束にドル札入り封筒を隠して渡すのが慣習となってきたようだが、ある教授が大学の朝鮮労働党委員会に告白して表面化したという。
しかしハッキリ言って、この程度ならかわいい話だ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面昨年4月には、黄海北道(ファンヘブクト)にある沙里院(サリウォン)の大学で、党書記の地位にあった50代の男性が、40人もの女子学生に権力型性犯罪を働いていたことが暴露された。
(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為)
また前年には、首都・平壌の総合レジャー施設で、女子大生を組織的に性搾取していたグループが摘発された。このときもやはり、音楽や演劇系の名門大学の教授らが加担していたことがわかった。事件に巻き込まれた学生は数十人とも200人とも言われる。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面この事件では、金正恩総書記の直接の命令により、首謀者たちが公開処刑されている。
もしかしたら、平壌音大の教授が党委員会にドル入り花束の件を党委員会に告白したのは、この事件の結末が効いたのかもしれない。
党委員会は1月16日、当該の学部の教授、学生全員を集めて思想闘争会議を開催した。間違いを犯した者に自己批判をさせ、他の人に代わる代わる批判させる「吊し上げ」だ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面その場では、学生から受け取った現金を正直に党委員会に差し出した教授は「良心のある教授」として称賛された。しかし、受け取って何も言わなかった教授は「良心のない教授」と厳しく批判され、顔を上げて歩けないほどの辱めを受けたとのことだ。
だが、ほとぼりが冷めれば何事もなかったかのように、ワイロのやり取りは復活するだろう。
教授といえども受け取る月給は雀の涙で、学生からのワイロがなければ生活が成り立たないからだ。教育現場に限らず、国全体に同じような慣習が定着しており、根絶は困難だろう。