「こんな国のために戦えない」元兵士の悲惨な死で怒りの北朝鮮世論

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世界には、退役軍人を一般人より優遇する国が数々存在する。例えばアメリカの場合、退役軍人は退役軍人省による福利厚生の恩恵を受け、社会的にも政治的にも一定の影響力がある。

韓国には国家報勲省が存在し、韓国軍の退役軍人にとどまらず、日本の植民地支配と戦った独立有功者やその家族、ベトナム戦争で散布された枯葉剤を浴びて後遺症に苦しむ退役軍人、光州民主化運動(光州事件)で民主化運動を行った人々などに対する福利厚生や、彼らが死後に埋葬される国立墓地の維持管理を行っている。

北朝鮮も同じで、朝鮮戦争に朝鮮人民軍(北朝鮮軍)として参加したお年寄りは、「戦争老兵」として様々な福利厚生の恩恵を受け、社会的にも高い地位を持っていた。しかし、1990年代の大飢饉「苦難の行軍」を前後して、福祉システムが機能しなくなり、今では貧困に苦しむ人が少なくない。

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咸鏡南道(ハムギョンナムド)の北青(プクチョン)では、ある戦争老兵が病院で診療拒否に遭い亡くなる事件が発生した。現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

戦争老兵で80代のキムさんは、10年前に妻に先立たれ、息子夫婦と共に暮らしていた。今年に入ってから体調を崩したキムさんは、生活苦で充分な栄養が摂取できず病気が悪化、10月からは寝たきりになってしまった。

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先月中旬のある日の夜、急に呼吸が速くなり片方の足が動かせなくなってしまった。息子はキムさんを背負って北青郡の病院へと急いだ。

ところが、当直の医師はキムさんを見るや、「ここで治療できる状況ではない、咸鏡南道病院に行け」と基礎的な応急処置すら行わなかった。息子は、キムさんが戦争老兵であることを明かし、強く抗議したが聞き入れられなかった。

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慌てた息子は急いで約100キロ離れた咸興(ハムン)にある咸鏡南道病院に行こうとしたが、キムさんは「車(タクシー)がいつ捕まるかわからない。もういいから家に帰ろう」と諭した。そして、帰宅途中にキムさんは息を引き取った。

この話は、口コミネットワークを通じて、地域一帯にあっという間に広がった。社会的に支える対象である戦争老兵ですら冷遇される現状にため息を付く人もいれば、国の福祉政策を非難する人もいた。

「一般住民ではない、国のために戦った戦争老兵までが治療も受けられずに道端で亡くなるなんて、なんと酷い話なのか」
「戦争老兵がそんな扱いを受けるのだから、一般住民の扱いなど言うまでもない」
「国は、戦争老兵の革命精神に学ぼうなどとありとあらゆるプロパガンダに老兵を利用しているが、現実はこの有様だ。戦争が起きたとしても、国民の誰が命がけで戦おうか」(地域住民)

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当局は戦争老兵のことを「青春も命も捧げた英雄たち」「国の大切な宝」などと持ち上げて、毎年7月27日の祖国解放戦争勝利記念日(戦勝節、朝鮮戦争休戦協定締結の日)に合わせて、戦争老兵大会を開催している。

しかし、情報筋は「政治的プロパガンダに過ぎない」と吐き捨てた。

「老兵たちを平壌に集めて、記念撮影、服などの記念品の贈呈を行うのが大切なわけではない。老兵たちをいかに政策的にきちんとケアするシステムを構築するかが重要だ」

貧困に苦しむ戦争老兵は少なくないが、こんな状況にあってもまだマシな方だ。朝鮮戦争中ではなく、平時の勤務中に事故で障がいを負った栄誉軍人(傷痍軍人)、一般の老人や障碍を持った人が生きるか死ぬかの綱渡りの日々を送っているのに比べると、戦争老兵は、贈り物をもらえたり、優先的に養老院(老人ホーム)に入れたもらえたり、多少なりとも優遇されている。

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キムさんの診療を拒否した北青郡病院と担当の医師に対する批判の声が高まり、責任を問うべきだとの世論が形成されたが、先月末の時点で具体的な動きはないようだ。地域住民の間からは、「普段からきちんとした待遇をすべきだ、死んだ後によくして何の意味があるのか」という批判の声が上がっている。