氏名: パク・ヨンミン
年齢: 40代中盤
職業: 対北貿易業者
出身: 中国 朝鮮族
中国・朝鮮族の貿易業者パク・ヨンミン氏。現在吉林省延吉に居住しており、2011年に3度北朝鮮を訪問した。パク氏は5月初旬にも北朝鮮を訪問している。パク氏は対北事業と同時に、北朝鮮同胞を助けることにも積極的だ。北朝鮮の住民達の助けになるような支援事業に率先して参加しているという。
-北朝鮮と何の取り引きをしているのですか?
-金になるものは何でもやる。北朝鮮の山から薬材や松茸を持ってくる。そして北朝鮮に米や肥料、電子製品などを送る。商売はまずまずだが、他のところに費用が沢山かかる。病院などに食べ物や薬品の支援も少ししている。
-北朝鮮の商人から要求が高い物は?
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面-電子機器だと思う。若い子達は、ご飯を食べられなくても歌や映画は見ようとするので、MP3などを欲しがる。中国語の勉強をしている人が多いので、中国語の教材や辞典、電子辞書を求める卸業者もいる。当然朝鮮語で勉強しなければならないので、韓国の辞典で勉強する。電子辞書は韓国産ヌリアン(国内の電子辞書専門生産会社)のものがいい。でも私はそういうことはよっぽどのことがないとやらない。個人的にお願いされればやるが。主にホテルに必要なエアコンやファックス、掃除機などを供給している。設置をしたら修理もしなければいけない。
-ヌリアンの電子辞書はとても高いですが。
-北朝鮮の幹部達がどんなにお金をよく使うか知らないんですね。行政員はどうしようもないが、貿易事業所の支配人達や羽振りの良い幹部達は良い物しか使わない。家に行くと韓国製品が沢山ある。ないから売れないだけで、高くて売れていない訳ではない。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面-北朝鮮での貿易の手順を教えてください。まず、入国手続きはどうするのですか?
-まず中国で橋頭(税関)税を10元と衛生検疫代25元を払い、橋を渡って北朝鮮側の税関に入る。軍人が出てきて連れて行かれるのだが、まず身体検査を行い、体温計(自動測定器)で熱を測る。36.7度を超えると、もう一度測る。口腔検査も行われる。書類に名前と住所、通行証番号、目的地、北朝鮮側の貿易業者等を詳細に記録しなければならない。機械が自動的に体温を測る。
-他の国の入国手続きも似ていますね。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面-北朝鮮では他に政治検査というものがある。これが大変だ。私に探りを入れるために、北側の貿易業者はそんな会社ではないと言ったりするなど、あれこれ誘導質問をする。政治審査で拒否されると入国出来なくなるので、きちんと対応しなければならない。持ち物検査もする。カバンから物を取り出して一つ一つ細かく見ていく。財布の中まで検査する。体の検査もするし、デジタルカメラのメモリーを持って行って復元する検査まである。この検査をするのに3時間かかる。
-どうしてそんなに長時間検査をするのですか?
-私が思うに、その人達は1日中座っていても訪問者がいないので捕まえておくようだ。やることがあるように見せなければ、今の地位を維持することが出来ないから。何か一つでも言いがかりをつけて、むしり取ろうとしているのだろう。必ず何か一つは押収される。充電が出来ない電気製品は、北朝鮮の電気を消耗するから押収しなければならないと言う。政治審査を受けるのに、中国のお金(人民元)で200ウォンもかかる。しかし問題は物やお金ではない。検査をしている最中にお昼を食べに行ってしまう。12時から3時まで、3時間も食べている。まちくたびれてしまう。
-それで入国手続きは終わりですか?
-政治審査が終わると、また税関員が荷物検査をする。正式の通関検査をするのだ。中国の車から降りて朝鮮の車に乗り換えるのだが、この過程でまた荷物検査をする。これが終わると北朝鮮側の貿易業者が来て連れて行かれる。私達がこういった手続きを受けなければいけないことに対して、彼らも垂オ訳なく思っている。保衛部と軍隊の力が強いので、彼らは不平不満を言うことが出来ない。
-北朝鮮の海関はどこもそうなのですか?
-羅先の税関は既に開放されているので少し楽だ。何度も通うと顔見知りになるので出入りが楽になる。豆満江の方だと、南陽、会寧そして茂山にある税関は本当に相手をするが大変だ。北朝鮮で待っていた人もこう言っていた。彼らもずっと待っていなければならないから、僕を見て「複雑ですよね」と言っていた。苦労させていることを分かっているから言える言葉だ。
-税関を守る軍人達の態度はどうですか?
-彼らの態度も普通じゃない。私を迎えに来た人が道党貿易局の幹部だった。そのくらいのレベルの人はとても威圧的だ。肩に力が入ってしまう。仮に中国から遼寧省の貿易局署長が出てくるとすると、中国の公安(警察)達は(署長を)見上げることも出来ないはずだ。しかし、貿易局署長が出てきたにもかかわらず、警備隊の若造達が「入れ、出ろ、なんだ」と怒鳴っていた。先軍政策が彼らをこうさせたのだと思う。
-北朝鮮では誰に会ったのですか?
-貿易局の指導員に会ったのだが、保衛部の指導員も同行していた。常に3、4人で出てくる。一人でいることは絶対にない。ここに企業所と行政指導員が合流する。一緒にいる間はずっとお酒を飲んでいる。朝から始まり、寝て起きてからもお酒を飲んでいる。
-会っても気楽に話をすることは出来なさそうですね。
-お互いに顔色をうかがっているので、簡単に言葉を交わすことは出来ないが、普通に物の取り引きの話をしたり面白い冗談を言い合ったりしている。北朝鮮の人達は私達に会った瞬間からベルトを外して飲み食いする。彼らは家にも帰らず横の部屋で寝泊まりする。家に行きたそうな様子もなかった。
-実際に北朝鮮の人を相手にしながら感じたことは何ですか?
-そこに集まった人を皆同じように扱わなければならない。ある特定の人だけと親しくなると他の人が嫌がる。お互いに監視しているのだが、よくない報告が入るとその場も危うくなる。全く同じように扱うことで嫉妬や失敗を防ぐことが出来る。
-彼らが望むことは何ですか?
-貿易を沢山することだ。そして中国から客を呼んでどうにかしてお金を出させることだ。金稼ぎや投資につながるよう努力する。朝鮮で何をすれば中国で売ることが出来るかいつも聞いてくる。お金を稼いだら、まず政府に出したあと、残りは会社員同志で分け合っている。
-北朝鮮に提案した事業はありますか?
-北朝鮮の鉱山に鉱物が沢山埋まっているが、それを買うことは出来るかと聞いている。鉱物は、一度上手く行くだけで大儲けすることが出来るので、中国の人々が狙っている。しかし、鉱物の純度や量を正確にするには力のある人を間に挟まなければいけない。3、4回失敗しても1度上手く行けば大成功だ。お金を沢山儲けることが出来る。以前は朝鮮人達が詐欺を働くことが多かったが、最近はむしろやられる場合が多いそうだ。個人の場合は、アイスクリーム商売が繁盛しており、やりたがっている人が多い。
-なんという鉱物ですか?
-銅、亜鉛、鉛などが主な種目だ。アルミニウムも採っている。○○商事ではマグネサイト、チタンポリプロピレンの話もよくしていた。活性炭の話もする。しかしそういうものは会社が事業を行わなければ大きな利益が出ない。最近は北朝鮮の絵を売ってくれと言われることもある。
-投資誘致計画について聞いたことはありますか?
-私が朝鮮族なので、同じ民族ということを強調する。肥料工場、化粧品工場の建設についての話をしながら、電気設備、人力を安くしてあげると言う。こうやって宣伝をしながら積極的に投資を誘致しようとする。しかし、貿易商人と税関の間の確執がひどい。貿易商人は何をしてでも(外国の商人を)連れてこようとするが、軍人や国家保衛部のやつらが言いがかりをつけて事を面倒にする。これについて一切不平不満を言うことは出来ない。
-個人的な要求をすることもありますか?
-二人っきりの時にする。中国にはいい運動靴があるからそれを今度持ってきてほしいとか、パンをお願いされることもある。無理なことでもないので、要求を聞いてあげることで仕事が楽になるなら私にとってもいいことだ。
-北朝鮮社会はおかしいと話すことはありますか?
-いつも言っている言葉があるじゃないか。「2012年に強盛大国が開かれる。朝鮮を信じろ。祖国が繁栄する日が必ず訪れる。私達は金正日将軍様と一緒に良い国を創る」と大口を叩いている。貧しいことを分かりきっているのに、来年からは豊かになると言っている。(人々は)聞き流している。彼らも中身の伴わない言葉だということを知っているから、お酒を飲んだりすると(それを言いながら)笑っている。
-食べ物がないと言っていましたが。
-幹部達は「米びつから人情が生まれる」と言っている。自分達が嘘をついていることを知っているから、「米びつから人情が生まれる」と言って取り繕っている。米がないと言っているのと同じだ。
-初めて北朝鮮に行った時と今では、どんな違いがありますか?
-そのままだ。目に見える変化はない。本当にそのままだ。しかし人々は変わった。昔は純真無垢だった人々が今はそうではない。
-市場には行きましたか?
-一人で外出することは出来ないので、夕方こっそりと行ったことがあるが、道端で商売をしている人が多い。物を少しずつ持ってきて商売をしている。豚肉を少し、人造肉を少し、こんな風に少しずつを売っている。ある人は紙を持ってきて商売をしている。検閲が突然来るので、物は家に置いたまま、物の名前を書いた紙を持って商売をしている。取り締まり班が来るので、物を持って逃げるのは大変だ。(検閲が来た時は)無我夢中で家に帰ったり別の路地に逃げていた。
-道端で暮らしている人も多いのですか?
-夕方の6時頃に出たのだが、道端で暮らしている人よりも商人の方が多い。道端で暮らしている人はあまりいない。
-あなたに物を買えと言う人はいましたか?
-私が中国人だということがすぐに分かるから、あまり近寄って来ない。北朝鮮の人は皆顔が黒い。お酒を飲んで健康状態がよくないからだと思う。
-金正恩氏に関するスローガンを見たことはありますか?
-見たことはない。私が泊まっている旅館にもそういうスローガンはなかった。幹部達に会っても、政治の話はしない。お互いに(その話題は)避けている。一言でもしくじると捕まってしまうからだ。
-一般人民はどうですか?
-食べることと生活すること以外には何の関心もない。商売をしに持ってきたものを見ても、食糧2キロ、トウモロコシ3キロ、それくらいだ。どうやって生計を維持するか、それにしか関心がないようだ。今は田植えの時期なので、人々が列をなして農場に行く姿を見た。
-コチェビ(北朝鮮のストリートチルドレン)は増えましたか?
-今回は2人程見かけた。車に乗っている時に見たのだが、線路の横で寝起きしているようだった。みすぼらしい綿の服に油がべたべたついていた。
-一緒にいた指導員達は韓国について何と言っていましたか?
-私はこう言う。「中国は開放後豊かになった。韓国も同じだ。外国から物や文化が入ってきて豊かになった」と。今は韓国の話が出来るようになった。中国が発展する過程での文化の流れを説明し、開放後(外国の文化等を)受け入れたことで早く発展することが出来たと言うと、彼らも共感する。北朝鮮の幹部達も「金正日将軍様がもうすぐ改革開放をするだろう」と言う。しかし改革開放の内容について具体的に言うことはない。
-北朝鮮は変わると思いますか?
-それは分からないが、これまでに変化がなかったのにこれから大きく変化するとは思えない。道路を見てみろ。ぼこぼこ穴が空いている。これをまともに直すことも出来ない。道路も家も建物も、何も変わっていない。中国は大きく変わったというのに。