北朝鮮の武装兵士、集団で越境か「中国にも通報」緊張走る

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北朝鮮の国境警備隊と言えば、「ワイロを使ってでも入りたい」人気の組織だった。国境沿いの地域で横行していた密輸を幇助、さらには直接関与したり、脱北者を中国に逃がす手助けをしたりして、除隊(兵役満了)後に、地元に戻ってビジネスを立ち上げるのに必要な資金稼ぎができたからだ。また、勤務期間中の食事に困らないことも、魅力の一つだったろう。

それも今は昔。金正恩時代に入って国境警備が強化され、密輸、脱北が困難になり、2020年1月からコロナ対策として国境が閉鎖されてからは、ほぼ不可能となった。

そして遂に、困窮した国境警備隊員らが集団で脱北する事件が起きた。両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

事件が起きたのは、故金日成主席の命日の今月8日。中心都市の恵山(ヘサン)に駐屯する国境警備隊第25旅団所属の複数の隊員が脱営(脱走)した。一部は、武器を所持したまま姿を消しており、重大事件として取り扱われている。

北朝鮮の国境では一般的に、国家的な行事のある日の前後は、警備が手薄になる。それを狙っての脱走と思われる。部隊は、人員を総動員して大々的な捜索を行っているものの、21日の時点でも見つかっておらず、既に脱北して中国に逃げ込んだ可能性が浮上している。

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軍と保衛機関(秘密警察)は、関連する組織に脱走者を必ず逮捕せよとの指示を下す一方で、中国側にも協力を要請したと伝えられている。なお、脱走者の具体的な人数について、情報筋は明らかにしていないが、部隊が事件を秘密裏に処理しようとしているため、情報が伝わっていないものと思われる。

ちなみに恵山と国境を流れる鴨緑江を挟んで向かい合う中国・吉林省の長白朝鮮族自治県の間は、警備が厳重だが、少し上流に遡ると、川幅は狭くなり、ひとけも少ないことから、警備のフリをして現場に接近、川を渡り中国側に逃げ込むのは充分可能なことだ。

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脱走の原因だが、情報筋は食事の問題を挙げている。

「お粗末な食事に不満を抱き、脱走したものと見られる」(情報筋)

たかが食事と言うなかれ。2014年12月には、吉林省延辺朝鮮族自治州の和龍市で、老夫婦4人を殺害した北朝鮮軍の将校が逮捕される事件が起きるなど、脱北兵士による犯罪が相次いだが、いずれも犯行の動機は空腹と見られている。また、兵士が川を渡り、中国側の国境沿いの地域にある食堂に駆け込んで、物乞いをすると言ったこともたびたび起きていた。

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なお、昨年4月から8月にかけて、国境警備隊に対して行われていた食糧配給がストップする事態も発生している。その後、配給は再開されたとのことだが、空腹を満たすほどの量ではなかったようだ。

情報筋は、空腹による脱走事件が度々起きているとして、その理由としてコロナ対策を挙げた。

「2020年、隊員たちが住民の村に行けないようにせよとの指示が下され、接触が遮断されたことで、彼らの空腹が倍増した。そんな状況で厳しい軍での生活を送る隊員たちが反感を持って、脱走を謀議した可能性もある」(情報筋)

最近では、恵山から遠く離れた平安北道(ピョンアンブクト)の東林(トンリム)で、朝鮮人民軍の兵士3人が脱走する事件が起きているが、こちらも原因は空腹によるものと伝えられている。

(参考記事:北朝鮮軍「エリート部隊」で起きていた隠微な不祥事

一切の事件、事故が起きてはならない重要な日に起きてしまった重大事件。第25旅団の幹部や、脱走した隊員の上官が責任を負わされることは確実で、部隊には緊張した空気が漂っているとのことだ。