金正恩「処刑部隊」幹部も抹殺…コロナ対策の裏で権力闘争

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新型コロナウイルスの全世界的流行が始まってから2年以上経った今年5月12日、北朝鮮は国内での感染者の発生を公式に発表した。その後、ロックダウンをはじめとした強力な感染拡大抑制策が取られていたのだが、2週間あまりで若干緩和されたことが伝えられている。

人の移動をいかに抑え込むかは、世界共通の悩みのタネとなっていたが、北朝鮮も同じだ。そのやり方を巡り、地元の朝鮮労働党委員長と保衛部(秘密警察)のトップが対立する事態となった。詳しく経緯を、黄海北道(ファンヘブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えている。

事件の舞台となったのは黄海北道の南東部にあり、軍事境界線にほど近い兎山(トサン)郡。先月中旬、朝鮮労働党の兎山郡委員会(郡党)で、非常防疫に関する会議が開かれた。

情報筋によると、保険業行政に関する指示を科学的、論理的に執行していく非常防疫指揮部のメンバーの意見と文書を承認し、会議は特に問題もなく終盤に差しかかっていたが、そのとき、郡の保衛部長が問題を提起した。

郡党の責任書記(地域のトップ)の話を遮るかたちで、保衛部長が急にこんなことを言い出したのだ。

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「今この状況で、人民をなだめてばかりいるわけにはいかない。トンカチの打ち方を間違えれば釘が飛び出るというが、人民が頭をもたげられないように、無慈悲な統制に入らなければならない」

保衛部は、公開処刑や政治犯収容所の運営を担ってきた、恐怖政治の実働部隊だ。人民の生命と安全を守るのではなく、体制の安寧を守るために存在している北朝鮮の治安機関らしい考え方ではある。また「優しく接すればつけあがる」と考えるのも、非常に独裁国家らしい。

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だが、責任書記の考え方は少し違ったようで、このように反論した。

「非常防疫規定は人民を生かすための規定なのに、そんな言い方は日帝時代(日本の植民地時代)の巡査の言っていたことと何が違うのか。あなたは人民のための兎山郡非常防疫執行委員ではないか。責任幹部らしからぬ発言だ」

しかし、保衛部長は「非常防疫の執行は基本的に保衛部が担っている」と叫び、全権を保衛部が握っているかのような発言をした。責任書記は「党に対して真っ向から歯向かっている」と一連の発言を問題視し、議事録の内容全てを上部機関の朝鮮労働党黄海北道委員会に報告した。

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事案は中央にまで報告され、「保衛部長ごときが党が与えた信念と信任に恩返しするどころか、歯向かっている」との結論が下された。そして、党を中心に団結し、非常防疫大戦を責任を持って陣頭指揮せよというのが党の一貫した方針だとして、イルクン(幹部)による規則の恣意的な解釈や無規則な行動は看過せず、断固として処断すると宣言した。

さらに「難関を打開する方法を探すのではなく、葛藤を煽ったり反党的な行動を絶対許すな」「保衛、安全機関の責任イルクンと防疫機関のイルクンの防疫政策の執行問題について、党が直接乗り出して教養(教育)と統制を強化せよ」と強調した。

社会のすべての組織において、朝鮮労働党が指導的立場にあるべきというのが北朝鮮の原則だが、その威信はかつてほどではない。おそらく今回の事例を利用して、党の威信を再確認させようという意図があるものと思われる。

実際、今回の事例は、各地で行われる政治講演会で使われる講演資料として全国に速やかに配布されている。

(参考記事:「正気の沙汰とは思えない」北朝鮮国民、金正恩演説にア然

さて、責任書記に歯向かった保衛部長だが、情報筋は「反党分子と見なされ、出党(党からの除名)、解任、撤職(更迭)の上で無慈悲な革命化に追いやられた」とだけ伝えており、最終的にどのような処分が下されたか、具体的には言及していない。

運が良ければ、ヒラ農場員に降格され、奥地の農場へ追放される処分となっただろうが、反党分子のレッテルを貼られたことから、管理所(政治犯収容所)送りになった可能性も充分考えられる。

(参考記事:男たちは真夜中に一家を襲った…北朝鮮の「収容所送り」はこうして行われる