北朝鮮は24日午後、平壌の順安(スナン)飛行場から朝鮮半島東の海上に向け、長距離弾道ミサイルとみられる飛翔体1発を発射した。
発射されたのは、新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」の可能性がある。北朝鮮は先月27日と今月5日、偵察衛星開発のためとして、ICBMの性能試験のための発射を行った。
こうして対外的には軍事的な強硬路線を歩みながらも、国内ではまるで別種の悩みを抱えている。
北朝鮮で広く行われている「嘆願事業」。農村、炭鉱など労働力が不足する地域に、都会の若者が「嘆願」して向かうというものだが、地域ごとに人数の割り当てが行われるなど、実際は半強制だ。
背景には貧窮による農村からの人口流出があると思われ、農業振興を重視する金正恩政権にとっても、最重要事業のひとつとなっていると見られる。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面しかし、農村の立ち遅れた現状を嫌う風潮は根強く、事業はうまく進んでいないようだ。現状を、咸鏡北道(ハムギョンブクト)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。
道内の機関、企業所では嘆願対象者に選ばれた人々が、農村や炭鉱に向かおうとせず問題になっている。
(参考記事:山に消えた女囚…北朝鮮「陸の孤島」で起きた鬼畜行為)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面道内の高原(コウォン)郡では200人の嘆願対象者のリストを作成し、行き先を定めたが、実際に嘆願事業に応じて現地に向かった人は50人に過ぎない。この数字に慌てた郡党(朝鮮労働党高原郡委員会)や、受け入れ先の農村経営委員会のイルクン(幹部)は悩んだ末に、上部機関である道党(朝鮮労働党咸鏡北道委員会)に報告した。
道党は、咸鏡北道人民委員会(道庁)労働課に指示し、嘆願に応じていない対象者を把握させた上で、連絡させるなどの対策を取っている。
彼らの多くは大学、専門学校、高級中学校(高校)を卒業したばかりの若者や、勤め先の工場、企業所、機関から「推薦」された人々だが、「絶対に行きたくない」と農村行きを激しく拒否しているとのことだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面これに対して道党は、党に忠誠を尽くし、国に貢献する若者になるには、農村行きを嘆願して食糧問題の解決の先頭に立たなければならないと説得すると同時に、党の政策の執行を拒否するならば政治的な問題にすると脅迫。言うことを聞かないようなら、本人はもちろん家族もろとも農村送りにすると警告している。農村送りが「罰」として課される状況が、農村の置かれた位置を示しているとも言えよう。
運悪く嘆願対象者に選ばれてしまった人々は、このままでは農村に追いやられてしまうとため息を付き、地元で嘆願事業を行っている組織も、道党の強圧的なやり方に、居心地の悪い思いをしているとのことだ。
なぜ農村行きをここまで嫌がるのか。一つは都市と農村の激しい経済格差だ。都会には豊かさの象徴である市場があり、金儲けのチャンスが転がっている一方で、農村にはまともなインフラ一つなく、貧困から抜け出す機会が得られない。
また、農村行きに応じてしまえば、農村戸籍に編入されてしまい、農村から一生抜け出せなくなる。そもそも、農村で生まれ育った人が貧困から抜け出すために、農村を離れたことで深刻な労働力不足が生じていると思われるが、そこに無理やり人を送り込めば解決するだろうという安易な考え方が嘆願事業の根底にある。
(参考記事:各地でトラブル続発、北朝鮮の農村「嘆願」事業)農村に送り込まれた人々は、スキあらば逃げ出そうと画策している。ワイロを積んで都会に住民登録ができれば、潜り込むことも可能だが、運悪く取り締まりに遭って連れ戻されてしまう人もいる。農村住民の生活向上という根本的な解決がなされない限りは、このような悪循環が延々と続くだろう。
(参考記事:北朝鮮で「農民連れ戻し令」が出された深刻な背景)