「スパイにやられた」北朝鮮で鉄道事故、軍人ら600人死傷

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北朝鮮北部の慈江道(チャガンド)で、多くの軍関係者を乗せた列車が脱線する事故を起こし、多数の死傷者が出ていると、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

事故が起きたのは先月15日。慈江道を走る満浦(マンポ)線の熙川(ヒチョン)と富成(プソン)の間だ。外国人観光客も多く訪れる妙香山(ミョヒャンサン)から至近距離にある。

列車は、清川江(チョンチョンガン)沿いに走る箇所で脱線した。具体的な事故の発生経緯について情報筋は触れていないが、600人もの死傷者が発生する大惨事となった。

(参考記事:また死亡事故発生、北朝鮮「血塗られた大型事故」の歴史

中でも、今月1日から始まった朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の冬季訓練に向けて部隊に復帰、または指示された訓練場所に移動する兵士や、その指導にあたる軍官(将校)、軍事郵便を輸送する機通手が多く乗っていた5号車に被害が集中、軍関係者だけで死者140人。負傷者230人を出した。死傷者の中には、慈江道地区司令部技術部の司令官(大佐、56歳)、李斉順(リ・ジェスン)軍官学校の政治部長(上佐、55歳)も含まれている。

調査に当たっている国家保衛省は、「南朝鮮(韓国)のスパイの仕業」だと主張しているという。

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しかし、北朝鮮ではどの鉄道も老朽化と整備不良、そして「速度戦」と呼ばれる工期短縮に偏った工法などにより、劣悪な状態にある。過去には数百から数千人単位の死傷者を出す事故が繰り返し起きている。

高速道路も同様で、ある工事現場では、橋が崩落し500人が死亡する事故が起きている。後に韓国へ逃れた目撃者たちの証言によれば、この崩落事故で川原には原形をとどめない死体が散乱し、現場は救助の看護師たちが気を失うほどの地獄絵図と化したという。

(参考記事:【再現ルポ】北朝鮮、橋崩壊で「500人死亡」現場の地獄絵図

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当局は、死傷者の半数以上が任務のために移動中だった軍関係者だった今回の事故を非常に重く見ている。

道党(朝鮮労働党慈江道委員会)は、「もし(金正恩党委員長が乗車する)1号列車が通って(事故に巻き込まれて)いたとしたら、革命の首脳部の安全に拭い去れない誤ちを犯していたかもしれない重大な問題」として、軍関係者と道民を総動員し、事故の収拾、線路の復旧に当たらせている。

情報筋によると、今回の事故の原因は線路の整備不良によるものだ。

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富成駅の管轄区間のレールの犬釘が複数本外れていたことが、列車脱線の原因になったことが調査の結果で明らかになった。責任のある富成駅の駅長、当該区間の線路担当の巡察員など管理者が慈江道保衛部(秘密警察)に逮捕された。

重大事故や事件の場合、容疑者は、身柄を平壌の国家保衛省に移されて取り調べを受けるが、今回は新型コロナウイルスの防疫の観点から、現地で勾留し、平壌から国家保衛省の担当者がやってきて取り調べを行っているとのことだ。

処分は今年中に下される予定だが、重罰にはならないとの見方が示されている。

「(来年1月の)朝鮮労働党第8回大会を控えて、党の寛大な姿勢、人徳政治のプロパガンダに使うため、比較的軽い処分で済まされるだろう」(情報筋)

前述したとおり、国家保衛省は今回の事件について「南朝鮮(韓国)の安全企画部(現在は国家情報院)の指図を受けた内部のスパイによる仕業」だと主張している。事故や事件の責任を韓国や米国になすりつけるこの手のプロパガンダは使い古されたもので、北朝鮮国民にはさほど通用しないものだが、現地では意外と受け入れられているのだという。

(参考記事:「新型コロナは韓国が撒いた」北朝鮮がフェイク情報

「レールの犬釘を1本抜けば、安全企画部から何千ドルもらえるという話は、(1990年代後半の大飢饉)苦難の行軍のころによく聞かれた話だが、現地住民は『悪性伝染病(コロナ)で国が苦しくなり、配給も亡くなり、封鎖で外出して商売もできなくなったから、犬釘を抜いて南朝鮮に渡す人がいるみたいだ』と保衛部の言うことを真に受けている人もいる」(情報筋)

苦難の行軍のころ、国営企業や公共施設の設備を勝手に売り払って食べ物を買って延命していた人もいたが、食糧難とその影響として現れた窃盗の多発は、もちろん韓国の指図ではなく、北朝鮮の失政によるものだ。今、北朝鮮の人々を苦しめているいる制裁、自然災害、コロナの三重苦も、金正恩政権の失政の側面が大きい。

慈江道の人々は、軍需工場に務め、国から配給を受け取って安定的な暮らしてきた人が多く、外部との行き来が厳しく制限していることから、他の地方の人々に比べて「世間知らず」が多いと言われているが、当局のプロパガンダを受け入れやすい土壌が揃っているのだろう。