韓国国会が今月2日の本会議で議決した来年度の国防予算は52兆8401億ウォン(約5兆300億円)で、前年比で5.4%も増えている。新型コロナウイルスで国家財政が打撃を受けながらも、文在寅大統領が昨年8月15日の演説で国民に約束した「誰も揺るがすことのできない国」に向け、軍事力増強の決意を示したものと見える。
しかし、新兵器導入構想の中でも話題の中心になってきた軽空母関連の予算は、研究用とシンポジウム開催のための1億ウォン(約950万円)しか割り当てられなかった。防衛事業庁が101億ウォンを要求していたことを考えると、「ゼロ回答」に近い結果だ。
韓国国会の判断は順当と言える。韓国軍は北朝鮮全土を攻撃できるミサイルの戦力化を推進中であり、わざわざ空母を作って海上に布陣する必要性は希薄だ。また、北朝鮮は韓国空軍が装備するF35Aステルス戦闘機への対抗手段を持たない。わざわざ海から戦闘機を飛ばす必要はないだろう。韓国国会でも、こうした問題を巡り議論が白熱したとされる。
それでも軽空母導入の推進派は、中国が2040年までに6隻の空母を配備し、日本はヘリコプター搭載型護衛艦「いずも」と「かが」を空母化するなど、朝鮮半島周辺の安保情勢の変化を理由として挙げているという。
これに対しても、単に空母を持っただけでは、日本のような強力な海軍国と肩を並べるのは不可能だとする声や、対艦弾道ミサイルや極超音速ミサイルなど「海上攻撃兵器の発展速度が現在よりいっそう早まるならば、空母は『浮かぶ標的』に転落してしまう危険性がある」とする慎重論が根強い。
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そもそも中国はいざ知らず、日本は韓国と同様、米国と同盟関係にある友好国である。確かに、現在の日韓関係は「戦後最悪」と言われるほどの状況だが、そういった問題まで含めて、国益に関する懸念を最大限、外交で解決するのがまっとうな安保戦略だろう。兵器を並べて威嚇し合うのは、話が通じない相手に対してすることだ。日本の空母導入を口実に「わが国も空母を持つべきだ」と主張するのは、自ら外交の道を狭めるのに等しいのではないか。
文在寅政権と与党・共に民主党は「進歩派(左派)」と呼ばれるが、韓国の左翼はナショナリズムが強い点では日本の右翼に似ている。しかし、ナショナリズムに傾倒するあまり、偏狭な思考で軍事戦略を動かせば、それがむしろ国益にとって有害だ。
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韓国軍当局はなおも、軽空母導入の妥当性に関する調査事業に取り組む構えだが、その過程で韓国の世論が冷静な判断を下してくれることを望みたい。