「生きて出られない刑務所」に入りたがる北朝鮮女性の残酷な身の上

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元衆議院議員でジャーナリストの山本譲司氏の著書をきっかけに社会的に関心が高まった累犯障害者、累犯高齢者。障害などの理由で出所後に自立が難しく、支援も受けられない人々が、寝床と食事にありつけるなどの理由で何度も軽微な犯罪を犯し、自ら望んで刑務所に入ろうとする。

これは、一般人でも受刑者でも等しく基本的人権が尊重されているからこその現象と言えよう。拘禁施設における人権侵害が常態化している国では考えられないことだ。その典型例のひとつが、北朝鮮だ。

程度の差はあれど、教化所(刑務所)、管理所(政治犯収容所)を問わず、受刑者には過酷な強制労働が課され、暴言、暴行、性暴力が頻発し、衛生状態も劣悪、病気になってもまともな治療は望めない。

(参考記事:金正日命令で「健康な人も廃人に」北朝鮮刑務所の実態

また、食糧事情も劣悪で、最も少ない受刑者には1日100グラムにも満たないトウモロコシ飯しか出されない。受刑者は餓死を免れるため、家族から食べ物を差し入れてもらうしかないが、差し入れ品は教化所内のコンビニで割高な値段で買うことを強いられる。

(参考記事:若い女性を「ニオイ拷問」で死なせる北朝鮮刑務所の実態

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それにも関わらず、あまりの貧しさから教化所にまた入れてほしいと願い出る女性が現れ、市民は驚きの声を上げている。

米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によると、その人は、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の清津(チョンジン)市の富寧(プリョン)区域出身の女性だ。7年前、人身売買の被害に遭い、中国の山東省に売り飛ばされ、中国人男性との結婚を強いられた。夫からのDVに苦しめられた末、昨年秋に家を飛び出したが、逆上した夫が公安に通報。女性は逮捕されて、北朝鮮の新義州(シニジュ)に強制送還された。

強制送還された人は、保衛部(秘密警察)の取り調べを受け、集結所という拘禁施設に入れられ、元住んでいた地域の安全員(警察官)と共に地域に戻った上で裁判を受けることになっている。ところが、待てど暮らせど安全員がやって来る気配がなかった。

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護送にかかる交通費などは、強制送還された人の家族が負担することになっているが、女性には家族がいなかった。また、新義州と清津を結ぶ列車はダイヤ上は存在するものの、頻繁な停電のため、電気機関車が牽引する一般列車はほとんど運行されていない。同区間にはディーゼル機関車が牽引する特別列車が運行されているが、運賃が非常に高い。

(参考記事:北朝鮮に登場した富裕層向け豪華列車

女性は集結所で数ヶ月待たされた末、ソビ車(個人経営の輸送車両)で移動することになったが、極寒の季節にトラックの荷台で1000キロに達する道程を移動中に、背中と足が凍傷にかかってしまった。

清津に戻った彼女は裁判で5年の教化刑(懲役刑)の判決が下され、咸興(ハムン)の9号教化所に収監されたが、上述の通り、教化所の環境は極めて劣悪だ。凍傷になっていた足の指10本全てが腐り落ちて、まともに歩けなくなってしまった。

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対処に困った教化所は、治療方法がないとの理由で釈放した。ところが、女性には帰る家もなければ、治療を受けるカネも、食べるものもなかった。洞事務所(末端の行政機関)が準備した部屋で寝泊まりし、住民が集めたトウモロコシを食べて糊口をしのいだが、まともに歩けない状態では仕事に就くのは不可能だ。

餓死の危機に貧した彼女は、保釈から1ヶ月足らずで安全部(警察署)に駆け込み、教化所に戻してくれと頼み込むに至った。

咸鏡北道の別の情報筋によると、現地住民らは、一度入れば生きて出られないかもしれないと言われている教化所に再び入りたいと自ら訴えた女性の、悲惨過ぎる身の上に衝撃を受けているという。