北朝鮮で頻繁に開かれる政治講演会。朝鮮労働党や政府の政策を宣伝し、指示を伝えるという思想教育の一種だ。最近のトレンドは、金正恩党委員長が南北対話や米朝首脳会談で主導的な役割を果たしたと宣伝するものや、自力更生や艱苦奮闘(苦難と試練に克服し、全力を尽くして闘う)の必要性を強調する内容だが、住民の反応は極めて悪い。
デイリーNK内部情報筋によると、生活総和(総括)、講演会、学習会などに参加しない人が多く、朝鮮労働党の組織指導部と宣伝扇動部の関係者は頭を抱えている。
出席率の悪い例として情報筋が挙げたのは、平安南道(ピョンアンナムド)順川(スンチョン)のある協同農場で行われた政治講演会だ。この日のテーマは核兵器に関することだった。
北朝鮮は昨年11月29日、共和国声明を出し、国家核武力完成の歴史的大業、ロケット強国偉業が実現したと発表した。「この日は帝国主義の侵略と核の脅威の歴史に永遠に終止符を打った日」「核武力完成は、金正恩氏が作った民族の歴史に残る慶事」などと豪語した。
その「核武力完成の日」宣布1周年を記念した講演会だった模様だが、出席率は散々なものだった。農場には約500人の農民が所属しているが、出席したのはわずか80人、つまり2割にも満たなかった。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面上役はさすがに「まずい」と思ったのか、「参加せよ」との指示を下した上で、翌日改めて講演会を行ったが、参加者はさらに減り50人だったという。
出席した人も、真面目に話を聞いていたわけではないようだ。
「出席しても、講師の話には耳を傾けず、商売の話、食糧事情や越冬の不安など私語ばかりしていた。核関連の講演を行っても『一般庶民の暮らしとはかけ離れた話』だと何ら反応を示さなかった」(情報筋)
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面講演会にはとりあえず出席しておいて、話は聞かずに居眠りしたり、ぺちゃくちゃおしゃべりしたりして、終わるのを待つというのが一般的なやり過ごし方だが、宣伝扇動部主催の政治講演会が空席だらけというのは、かなり異例のことだ。おそらく、商売や越冬準備に忙しいため、ワイロを払って出席扱いにしてもらったものと思われる。
(参考記事:面倒な勤労動員を「代打労力」で解決する北朝鮮商人)面白くためになる話ならともかく、「南朝鮮(韓国)や米国など資本主義社会は腐って病んでいる」という旧態依然とした、誰も信じないような話をしたところで、まじめに耳を傾ける人はほとんどいないだろう。
「この手の教養(思想教育)にあまりにも多く見させられたせいで、タイトルさえ見ればどんな中身かすべてわかる」(ある農民)
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