北朝鮮と韓国は9月24日、「秋夕(チュソク)」を迎えた。日本のお盆のようなもので、旧正月と並ぶお祝いの日だ。北朝鮮では近年、家族揃って墓参りをし、家に戻ってからごちそうを食べ、夜どおし韓流ドラマを見たりする過ごし方が定着していたが、最近ではそれも難しくなったようだ。
黄海北道(ファンヘブクト)のデイリーNK内部情報筋も、現地で韓流の取り締まりが行われていると伝えた。
「最近では流石に公開処刑はやらないが、監獄行きになる。元帥様(金正恩氏)が禁止を厳命したという噂が流れ、怖くて誰も韓流を見ようとしない」
(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…)処罰の対象となるのは大人だけではない。平壌のデイリーNK内部情報筋によると、子どもたちが韓流ドラマを見ているのがバレると、「子どものしつけができてない」として、家族全員が管理所(政治犯収容所)送りになってしまうこともあるという。
(参考記事:亡命した北朝鮮外交官、「ドラゴンボール」ファンの次男を待っていた「地獄」)当局によって罪状が軽いと判断されても、子どもたちは少年教養所(少年院)送りとなり、1年間再教育を受けることになる。
(参考記事:北朝鮮、「中学生青姦事件」に衝撃広がる…韓流ポルノの影響か ) 人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面少年教養所では1日中、高強度の労働をさせられた上で、夜には「新世代階級教養」「反帝国主義教養」という思想教育を受けさせられ、教材を暗記させられる。衛生や栄養の状態が劣悪なことは言うまでもないが、それでも成人が入れられる教化所や労働鍛錬隊(軽犯罪者の刑務所)に比べればかなりマシだという。
当局は今年から「非社会主義的現象」(当局の考える社会主義を阻害する行為)の取り締まりを大々的に行っている。対象には賭博、売買春、違法薬物の密売や乱用、ヤミ金融、宗教を含む迷信などに加え、韓国など外国のドラマ・映画・音楽の視聴が含まれている。
しかしそれでも、北朝鮮の人々が韓流を完全に遠ざける日は永遠に来ないだろう。韓流の集中取り締まりは繰り返し行われてきたが、その度に、少年少女らが集団でしょっぴかれたというニュースが入って来る。取り締まりがいかに厳しくとも、少年少女らが隠れて韓流を楽しんでいることの証左と言えるだろう。
(参考記事:北朝鮮が女子高生を「見せしめ」公開裁判にかけた理由)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
そもそも、南北対話の一環として韓流アイドルの平壌公演を許可しながら、庶民の韓流視聴を禁止する当局のダブルスタンダードには、国民から不満の声が上がっている。ほとぼりが冷めれば、今は慎重になっている北朝鮮の人々も、再び韓流に手を伸ばすはずだ。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。