朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の兵士たちが、上官からの暴力、暴言に苦しめられ、作業中の事故で死亡または負傷しても適切な補償を受けられないばかりか、遺体すらまともに収拾されない劣悪な人権状況に置かれている実態をまとめた報告書が発表された。
韓国の北韓人権情報センター(NKDB)が、北朝鮮軍に勤務した経験を持つ脱北者70人を対象に、昨年10月から今年1月までの間に聞き取り調査を行った結果をまとめたもので、タイトルは「軍服を着た収監者〜北朝鮮軍の人権実態報告書」となっている。
それによると、回答者の94.3%が北朝鮮軍での勤務期間中に暴言を吐かれたことがあり、うち82.1%がその頻度を「毎日」と答えた。また、75.7%は暴力を振るわれたことがあり、うち47.1%が強制的に寒さにさらされたり、睡眠を取れないようにされたりなどの拷問を経験したと答えた。
報告書では、北朝鮮軍において公開処刑が頻繁に行われている実態も明らかにされている。
回答者の41.4%は軍勤務期間中に公開処刑を目撃し、21.4%は公開処刑の話を聞いたことがあると答えた。証言のなかには、見せしめのために一度処刑した兵士の遺体を他の兵士が集まっている場所まで運び直し、再度銃で撃ったというものもあった。
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処刑された兵士の多くが階級の低い年少者で、分隊長や中隊長など上官の命令に従って犯罪行為に加担させられたケースであると報告書は分析している。深刻な飢えに苦しむ北朝鮮軍の兵士らは、協同農場や民家、はては国境の向こうの中国まで出向いて強盗を働くありさまだが、末端の兵士が上官の命令で略奪行為に加担させられるケースも少なくない。
もちろん、軍高官の中にも極めて残忍な形で処刑されている例はある。
(参考記事:玄永哲氏の銃殺で使用の「高射銃」、人体が跡形もなく吹き飛び…)北朝鮮軍の兵士たちは通常の訓練のみならず、様々な建設工事に動員されるが、死亡事故も深刻なレベルに達している。回答者の41.4%は建設現場で死亡事故を目撃し、21.4%が聞いたことがあると答えた。また、軍勤務中の死亡原因としては、劣悪な作業環境と高強度の労働によるものが最も多かったとのことだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面中でも、1997年4月に起きた大規模事故は、北朝鮮軍における人権侵害の最たるものと言えよう。
この事故は、韓国との軍事境界線に近い黄海北道(ファンヘブクト)金川(クムチョン)郡を流れる礼成江(レソンガン)で、建設中の橋が崩落し、朝鮮人民軍5軍団4師団18連隊所属の兵士98人が死亡したもの。当局は完成予定日に無理やり間に合わせるために、遺体収拾を行わずセメントで埋めてしまったというのだ。報告書では、複数の回答者がこの事故について証言している。
同じ金川郡では1989年4月、高速道路の建設現場で橋が崩落し、現場で働いていた兵士500人が120メートル下の川原に落下する大事故が起きている。川原には原形をとどめない死体が散乱し、救助の看護師たちが気を失うほどの地獄絵図と化したという。
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NKDBのイ・ジェチュン理事長は「128万人の北朝鮮兵士たちが上官による暴言、暴力に苦しめられているのみならず、国の大規模な工事や過酷な訓練に動員され、中には死亡する者もいる」とし「北朝鮮の軍隊は事実上巨大な監獄で、兵士たちは収監者のような立場に置かれている」と述べた。
また、同報告書の担当者であるキム・インソン研究員は「北朝鮮軍の人権問題については様々な報道がなされてきたが、全体的な実態の把握が難しかった」「NKDBは今回の報告書発刊を契機に、量的、質的なデータを継続して構築し、北朝鮮軍での人権侵害を構造的に把握し、韓国や国際社会にその実態を知らしめ、実効性のある解決法を探りたい」と述べた。
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