13日に韓国へ逃れる過程で、北朝鮮側から銃撃を受け負傷した亡命北朝鮮兵士の治療に当たっている亜洲大学病院のイ・グクチョン教授は22日、記者会見を行い、兵士は同日までに人工呼吸器が取り外され、意識を回復したと発表した。
また、一部メディアにより兵士が「韓国の歌を聞きたい」と言ったと報じられていることについて、同教授は「患者が南の歌を聞きたいと言ったことはなく、医療陣が情緒を安定させるために聞かせている」と明かした。
ただ、韓国のガールズグループ・少女時代の代表的なヒット曲である『Gee』の複数のバージョンを聞かせたところ、兵士はオリジナルバージョンが「いちばん良い」と話したという。
また、同様の目的からテレビ番組や映画も見せており、兵士は米ドラマ『CSI:科学捜査班』を好んでいるとしている。さらに、教授が兵士と一緒に映画『トランスポーター』(仏米合作)を見ていたところ、兵士は「私も車を運転した」と述べたとのことだ。
筆者は、件の「韓国の歌を聞きたい」との発言を前提に亡命の背景を推測してみたが、正確なことを知るには、やはり本人の説明を待つほかなさそうだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面それでも、軍の将兵を含む北朝鮮国民の間で、韓国の歌やドラマ、ハリウッド映画が密かに視聴されているのは事実だ。
(参考記事:亡命兵士が「韓国の歌」を聞きたがった理由…北朝鮮軍を揺るがす美少女エンタメ)繰り返し指摘しているように、韓流ドラマを見ることもハリウッド映画を見ることも、北朝鮮では厳禁で、視聴がバレれば重罪に問われる。
(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…)イ教授によれば、兵士の体は強靭であり、普通より速いスピードで回復している。また、「(兵士と)握手をしてみたところ、まるでUDT(韓国海軍特殊戦旅団)の兵士みたいに、手のひらの皮が洗濯板のように固かった」という。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面ただ、銃創によるダメージがあまりに大きく、後遺症は避けられそうにないという。
北朝鮮における海外エンタメの流行以外にも、この兵士には語ってもらいたい話が山ほどある。今後もできるだけ順調に回復することを願いたい。
(参考記事:亡命兵士の腸を寄生虫だらけにした北朝鮮「堆肥戦闘」という名の地獄)高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。