先の衆議院選挙公示前に自民党が在京TV局各社に「選挙報道に偏りがないように」と文書で申入れして物議を醸した。その後のテレビ報道に対してもネットを中心にテレビの選挙報道への不満の声が上がった。
報道に関する圧力は北朝鮮問題でも多々見られる。
国連では北朝鮮の人権侵害に対する圧力は強まっているが、この問題を取り扱うと朝鮮総連から強いクレームが来るという理由で及び腰なのが日本の報道機関だ。
【参考記事】人権問題は素通り?総連とテレビ局のアヤシイ関係
とかく圧力に弱いとされる日本のメディアだが、海外とて例外ではない。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面2011年に開設されたAP通信平壌支局について、アメリカの北朝鮮専門ニュースサイトNK Newsは開設にあたってAP通信と北朝鮮国営の朝鮮中央通信が交わした合意文書の原稿を入手したと25日(現地時間)報道した。
ジャーナリストのネイト・セイヤー氏は、AP通信が北朝鮮のプロパガンダをAPの名前で流すことに合意したものとして批判している。
合意文書によると「AP通信は朝鮮労働党と北朝鮮政府の政策の世界へのPRという目的のために尽す」「配信内容の改編には双方の『完全な相談』が必要」としている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面また、合意によると朝鮮中央通信に北朝鮮人スタッフを選ぶ権利を有する、APの記者が長期間駐在するためのビザは発給しないとなっている。
平壌支局で働く現地スタッフは北朝鮮当局があらかじめ選んだ数人の中からAPが選ぶ形を取っていて、彼らは保衛部と何らかの形で関係があることは想像に難くない。
APの関係者は「我々は朝鮮中央通信の検閲を認めていない」と語った。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面また、AP通信上席副社長兼編集長のキャスリーン・キャロル氏は2012年1月のハフィントン・ポストの記事に「平壌支局の運営が他の支局同様にできないならば我々は開設していなかった」と語っているが、内部から反論が提起されている。
匿名のAPの社員はNKニュースに対して次のように語っている。
「APは北朝鮮の代弁者にならないように努力しているが、それは根本的に不可能だ」
別の匿名の関係者も「APの外国人スタッフにはあまりにも多くの制約を課せられていて、平壌支局で真の報道がなされたことはない」と批判する。
APに対して課せられた様々な制約に対してAPは抵抗をしたのだろうか。
交渉に関わった匿名の関係者は「交渉は非常にスムーズに進んだ、一切の対立はなかった」と交渉の過程について証言した。
アメリカ人が抑留された件でも、ソニー・ピクチャーズへのサイバー攻撃の件でもAP通信の平壌支局からは何の配信もされていない。抑留された2人には何度もインタビューが行われているが「ニュースバリューがない」(AP通信)との理由で配信されていない。
AP通信と同時期にロイター、AFP、ドイツのDPAなどの通信社とも平壌支局開設の交渉が行われていたが、いずれも北朝鮮政府による制約に難色を示して実現しなかった。
「北朝鮮でのジャーナリストの自由な活動はまったく不可能だ」DPAのスポークスマンのクリスチャン・レヴェカンプ氏は昨年あるメディアとのインタビューでそう答えている。
「北京とソウル駐在の特派員の方がよりよい北朝鮮関連記事を書いている」
「国のどこに行っても政府関係者の統制を受ける。平壌に特派員を駐在させても平壌の報道すらカバーできない」(クリスチャン・レヴェカンプ氏)
一方で、同じNKニュースのコラムニストのアンドレイ・ランコフ氏は「APの平壌支局開設は様々な限界があるが、それでも価値がある」とAPを擁護している。
その例としてロシアのイタル・タス通信の2000年代初頭の平壌特派員のスタニスラフ・ワリウォダ氏の活躍ぶりを挙げている。彼は様々な制約を乗り越えて様々な重要なニュースを平壌から配信している。もちろん、APとは違い平壌常駐が許されていたという違いはあったが。
なお、NKニュースはAP通信にこの合意文書についてのコメントを求めたが、APは一切のコメントを発表していない。
日本の報道機関で平壌に支局を置いているのは共同通信1社のみ。AP通信同様に記者は常駐しておらず、中国総局の記者が兼任している。かつては赤旗も平壌に記者を常駐させていた。また、朝鮮新報も平壌に支局を置いている。