ただし、党中央委員候補となった玄氏はともかく、北朝鮮の芸術家たちが、永遠にスターの座にいられるというわけではない。音楽家として金正恩氏の偉大性を宣伝する、つまり最高指導者の沽券にかかわる存在だけに、失態を犯せば最悪の場合「処刑」が待っている。2015年3月には、李夫人が所属していた銀河水管弦楽団のメンバーら4人でさえ、せい惨きわまりない方法で処刑されたと伝えられている。
(参考記事:「家族もろとも銃殺」「機関銃で粉々に」…残忍さを増す北朝鮮の粛清現場を衛星画像が確認)玄松月氏の正確な年齢は不明だが、年齢の若さもさることながら、元歌手が朝鮮労働党中央委員会入りした前例はない。20代後半から30代前半と見られる金与正氏の抜擢も含めて、二人の女性の異例の人事には、金正恩氏の私情が色濃く反映されているようだ。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。