こうした中、情報筋は金正恩氏が、続発する集団脱北を「重大政治事件」と見なし、国境防衛隊の幹部や、保衛指導員を厳しく追求し、更迭するものと見ている。
保衛省は、金正恩独裁体制を支える要の治安機関だが、その一方で、トップである金元弘(キム・ウォノン)氏が、なんらかの理由で一時的に表舞台から姿を消したこともある。韓国の国家情報院によると今年2月、保衛省の次官級幹部5人以上が、人間を文字通り「ミンチ」にする高射銃で無慈悲に処刑された。
保衛省は、残忍で無慈悲な取り締まりを行うことで、住民から多くの恨みを買っている。それでも、組織として生き残るためにはどんな手段を使ってでも金正恩氏を頂点とする独裁体制を「親衛隊」として支えていくしかない。その保衛省でさえも、「一寸先は闇」なのが、今の金正恩体制なのだ。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。