腹心を出世させたのはもちろんだが、サプライズ人事もあった。衆人環視の中で連行され、処刑されたと思われていた軍幹部を復権させた。自らに服従すればこそ生きられるということを、見せつけたかったのではないか。
正恩氏が、このような「血と恐怖」のシナリオをもって党大会開催を目指したのだとすれば、彼の権力に対する本能と野望はまったく侮れないものだということになる。
しかし、そのことが今後も彼の統治が上手くいくことを意味してはいない。北朝鮮国民が切実に求めているのは、飢える心配のない生活であって、それを「恐怖政治」で与えることはできない。北朝鮮で、国民が体制に異を唱えることは、死の危険に直結する。それでも、異を唱えた人々がいなかったわけではない。
(参考記事:抗議する労働者を戦車で轢殺…北朝鮮「黄海製鉄所の虐殺」)もし、こうした出来事が再現されたとしたら、国際社会から人権問題で厳しい追及を受ける中、金正恩体制は「虐殺」で応じることができるのか。金正恩体制はいずれ、北朝鮮国民から最も深刻な挑戦を受ける可能性があるということだ。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。