国際刑事裁判所(ICC)などの活用に向け、人権侵害の責任追及に取り組む専門家グループを設けることなどが盛り込まれたからだ。つまり、北朝鮮の首脳部、とりわけ金正恩第一書記が「人道に対する罪」で責任を問われる可能性が出てきたのだ。ざっくり言えば、金正恩第一書記は、ナチス・ドイツのヒトラーやカンボジアのポル・ポトなど、世界史に残る独裁者と同様の烙印を押されかねない。
30代で指導者になったばかりの金正恩氏が、いきなり残虐な独裁者のレッテルを貼られるのは、北朝鮮の国家運営において大きな支障となる。それだけでなく、最高指導者(金正恩氏)の権威、いわばメンツをなによりも重んじる北朝鮮体制にとって、決して許されることではない。だからこそ、北朝鮮の李スヨン外相は今月1日、国連人権理事会で「逆ギレ演説」を行ったのだ。
(参考記事:北朝鮮外相「逆ギレ演説」に見る金正恩氏の動揺ぶり)しかし、いくら北朝鮮が悪あがきをしようとも北朝鮮自身が人権侵害の改善に取り組まない限り、評価は決して変わらない。国連の人権決議は、「このままではあなた(金正恩氏)はいつまで経っても国際社会から『北朝鮮のリーダー』として認められません。それだけなく、失格の烙印を押しますよ」と突きつけているわけである。こうした状況に最も苛立ち、そして焦燥感にかられているのは金正恩氏本人ではなかろうか。だからこそ、暴走を続けるのかもしれない。
(参考記事:金正恩氏が「暴走」をやめられない本当の理由)高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。