すでに実質的には新興富裕層を中心とする市場経済の中に身を置き、ビジネスを通じて合理的思考を養いつつある北朝鮮の人々が、正恩氏のあまりに非合理な国家指導から顔をそむけるのは、むしろ当然のことだろう。
問題はこうした現状が、金正恩氏にとっては「仕方ない」では済まされないことだ。幹部らを相次いで粛清し、恐怖政治で国内を引き締めている正恩氏は、庶民に対しても情け容赦ない素顔を見せている。
先日、正恩氏はスッポン養殖工場の視察中に激怒し、後に同工場の支配人が銃殺されていたことが明らかになった。視察時の様子は動画で公開されており、こわばった表情で直立不動の姿勢を取る職員たちや、泣き顔のような表情をする老幹部が写っている。
そんなものを見せられているのだから、人々が正恩氏に対して震えあがっていても良さそうなものだが、それでも彼の権威は確立していないのである。
正恩氏は今後、あの手この手で国民の引き締めを図るだろう。当面は、10月10日の朝鮮労働党創立70周年に向けて行われている「犯罪との100日戦闘」に注力する可能性が高い。 このキャンペーンでは、請負殺人や乱交パーティー、覆面強盗などが摘発されているというが、当局の裁量により、ごくささやかな過ちで断罪される人が出ないとも限らないだろう。