この過程で、ある知人の妻が、「脱北したことは知っていたが、通報しなかった」と供述し、保衛部に連行された。女性は、半年間勾留されて取り調べを受けたが、脱北を幇助したわけではない。ただ単に「脱北した」と聞いただけだった。しかし、北朝鮮では立派な犯罪になる。
保衛部は彼女を拘留するだけでなく、家族に対して「中国人民元で5万元(約93万円)払え」とワイロを要求。北朝鮮の一般庶民にとっては天文学的な額だが、家族はなんとか集めて、女性を無事釈放させることに成功した。払えなった場合、女性は間違いなく教化所(刑務所)送りになっていたことだろう。
証言者は、この一家の詳細には触れていないが、5万元ものワイロを支払えることからすると、おそらくトンジュ(金主、新興富裕層)だったと見られる。保衛部は、それを知った上で、当初からワイロ目的で、トンジュを狙い撃ちにした可能性が高い。