現時点で正確な理由は不明だ。もしかすると、金正恩第1書記が水爆に言及したことも関係しているのだろうか。中国は、北朝鮮の核を認めない姿勢を貫いており、今回の水爆発言に対して強い不快感を示した可能性もある。
また、今回の訪中にはモランボン楽団の団長である玄松月(ヒョン・ソンウォル)氏も同行している。かつて、金正恩氏の恋人として取り沙汰されたこともある女性だ。もしかすると、中国側が金正恩氏と玄松月氏の過去を報じて、それに北朝鮮が反発したこともありうる。
あるいは、団員らが何らかのスキャンダルに見舞われた可能性もゼロではない。過去に芸術団員が「淫乱動画スキャンダル」に巻き込まれ粛清・処刑された例もある。
いずれにせよ、今回のドタキャンは中朝関係修復ムードに水を差した。金正恩氏は、モランボン楽団の公演成功を足がかりに、初の中国外遊を見据えていたのだろう。そのうえで、来年5月に開かれる朝鮮労働党 第7回大会に、中国共産党の要人、とりわけ習近平氏を招請するつもりだったと見られる。
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高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。