北朝鮮を「人力」時代に逆戻りさせた”燃料欠乏”の断末魔

北朝鮮の農村がいま、深刻な燃料欠乏によって“機械化以前”の時代へ逆戻りしつつある。春の本格的な農繁期を迎えたにもかかわらず、各地の農場ではトラクターを動かすための軽油が確保できず、住民が自ら木製の農具を引き、家畜とともに畑を耕す光景が広がっているという。慢性的なエネルギー不足が、国家の根幹である食糧生産を直撃している格好だ。

デイリーNKの現地消息筋によれば、平安北道の農村地域では、当局が「播種期に合わせて農場へ燃油と電力を優先供給せよ」と指示を出したものの、現場には農機を稼働させる最低限の燃料すら届いていない。名目上は国営の燃油販売所を通じて農場向けに優先配給される仕組みだが、供給量は極めて乏しく、多くの農場は結局、市場から高値で燃料を買い集めざるを得ないのが実態だという。

しかし、その市場でも最近は油価が急騰。もともと外貨不足や物資の対ロシア輸送の増大、老朽化した精製・輸送インフラの制約などで国内の燃料需給は逼迫していたが、ここへ来て地方では「そもそも在庫がない」「あっても高すぎて買えない」という二重苦に陥っている。とりわけ国境や山間の僻地では輸送費が上乗せされるため、軍の駐屯地や都市近郊の農場との格差も鮮明になっている。

平安北道の壁東郡、朔州郡、さらに慈江道・雩時郡などの辺境では、十分な軽油を確保できず、農場員が自ら畑起こしに投入されているという。本来ならトラクターで一日あれば終わる作業を、人海戦術で数日がかりで進めるしかない。現地では「人が牛のように農具を引いている」「これは農業ではなく苦役だ」との不満が噴き出しているとされる。

(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為

問題は、単なる重労働にとどまらないことだ。耕起、施肥、水田整備の遅れは、そのまま播種時期の逸失につながり、秋の収穫量を左右する。北朝鮮では近年、食糧事情が改善と悪化を繰り返す不安定な状況が続いており、もし今年の春耕が遅れれば、秋以降の食糧需給をさらに圧迫しかねない。