米国とイスラエルによる対イラン軍事作戦が始まった2月28日以降、イラン側の情報圏では米軍に重大な損害を与えたとする未確認情報や虚偽情報が相次いで拡散されている。専門家は、こうした動きについて「戦場だけでなく情報空間で戦う認知戦の一環」と指摘している。
3月初めには、米海軍の空母がミサイル攻撃で撃沈されたとの主張が親イラン系のSNSやメディアで広がった。標的とされたとされるのは米海軍の空母エイブラハム・リンカーンなどとされ、「弾道ミサイルが命中した」とする内容だった。しかし米軍はこれを完全に否定し、空母が攻撃を受けた事実はないと説明している。
また、米軍機を撃墜したとする動画もSNS上で拡散されたが、検証の結果、これは戦闘ゲーム「War Thunder」の映像だったことが判明した。さらに米軍の最新鋭ステルス爆撃機B-2を撃墜したとする投稿や、米軍艦艇を撃沈したとする画像も出回ったが、いずれも独立した確認は取れていない。
こうした情報は一見すると、劣勢に立つ側の「低レベルな悪あがき」にも見える。しかし専門家は、イラン国内の情報環境を踏まえると一定の政治的効果を持つ可能性があると指摘する。
(参考記事:イランの「ドローン空母」無残に撃沈 北朝鮮“異形の兵器”は)
イランではインターネットやメディアに対する統制が強く、海外メディアへのアクセスも制限されることが多い。軍事知識に乏しい一般市民にとっては、政府系メディアやSNSを通じて流れる「戦果情報」が事実のように受け止められる可能性がある。
その結果、「自国軍は善戦している」「イスラム体制はまだ強い」といった認識が広がれば、戦況が不利でも体制への不満や動揺を抑える効果が期待できる。
イランの最高指導者を中心とする体制、すなわち イスラム共和国体制 にとって最も重要なのは、軍事的勝利そのものよりも国内統治の維持だとの見方もある。
軍事専門家の間では「仮に実戦で劣勢に立ったとしても、国内で体制崩壊を防ぐことができれば、イランにとっては完全な敗北とはならない」との指摘も出ている。
