背景には、「配給すらまともにできないのに、忠誠を強調する贈り物とは本末転倒だ」との住民の不満が急速に拡散したことがあるとみられる。
北朝鮮では、指導者が人民に恩恵を与える姿を演出するため、誕生日や国家的記念日に食品や生活必需品を配給する慣行が長年続いてきた。とりわけ子どもへの菓子配給は、体制の「慈愛」と「父性愛」を象徴する重要な政治イベントと位置付けられ、学校や地域社会では忠誠心を高める教育的効果も期待されてきた。しかし、国際制裁の長期化に加え、ロシアや中国との貿易縮小、慢性的な外貨不足、自然災害などが重なり、国家の供給能力は著しく低下している。住民生活は配給よりも市場への依存度を強めており、今回配られた菓子は、市場で家庭製造される簡易菓子よりも質が低かったという。証言では、小麦粉だけで焼いた味気ない菓子や、形を整えず砂糖を固めただけの粗末な菓子が大半を占め、子どもが口にすると喉に詰まりそうになるほど硬かったとの指摘もある。
(参考記事:「金正恩印」のお菓子作りに失敗した5人の悲惨な運命)
一方で、住民の不満は検閲団の派遣そのものにも向けられている。当局が原材料を十分に確保できないまま低品質の配給を強行し、問題が表面化すると現場幹部に責任を押し付けて処理しようとしている、との見方が広がっているためだ。別の咸鏡北道の住民も、「今回の通報は単なる一部幹部の失策ではなく、国家経済の崩壊と体制運営の矛盾が露呈した結果だ」との声が住民の間で語られているとRFAに述べた。
体制の権威と正統性を支えるはずの「贈り物」が、かえって経済難の現実と国家の供給能力の限界を浮き彫りにした格好だ。象徴政治として重視されてきた施策が、住民の失望と皮肉の対象に転じつつあり、北朝鮮指導部にとっては、体制維持の手法そのものが試される局面を迎えていると言えそうだ。
