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かつての北朝鮮では、すべての食料品が勤め先を通じて配給されていた。それは、下手にお上に逆らうようなことをすると、配給が止められてしまうことを意味する。そうやって人々が不平不満を口にしないように抑えつけていたのだ。

しかし、1980年代に旧共産圏からの援助が止まったことで、国主導の配給システムにほころびが生じ、1990年代後半の大飢饉「苦難の行軍」を前後して完全に崩壊。食べ物は市場で買うようになった。「文句があるなら食べさせない」ということができなくなってしまったのだ。

当局は近年、市場での経済活動に制限を加え始め、穀物供給の主導権を市場から取り返し、かつてのような体制を取り戻そうとしている。その一環が、国営米屋「国家食糧販売所」の設置だ。さらには、市場でコメを扱う商人の取り締まりに乗り出した。

咸鏡南道(ハムギョンナムド)のデイリーNK内部情報筋によると、北青(プクチョン)郡当局は、市場でコメの卸売や小売を行っている商人に対する取り締まりを行っている。

国家食糧販売所では昨年から、市場より安い価格でコメの販売を始めた。市場では1キロ5500北朝鮮ウォン(約88円)だが、国家食糧販売所では4700北朝鮮ウォン(約75円)だ。だが、この政策には決定的な弱点がある。売るコメが足りないのだ。

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国家食糧販売所で販売するコメは、各地の協同農場から供給されるが、現金収入を得たい農民や輸送担当者が途中でくすねて売り払ってしまう。当局は取り締まりを強化しているものの、そもそも昨年は凶作で、元々の収穫量が少ない。

(参考記事:協同農場を「占領」した北朝鮮軍の危機的状況

軍や平壌に優先的にコメを供給し、残りを地方に送るが、それでは足りず、国家食糧販売所では1人あたり5キロの販売制限をかけている。

そこで当局は、農民がくすねたコメを買い取って販売している市場の米屋を取り締まることにしたようだ。卸売商が1度に動かすコメの量は2〜3トン。本来なら国家食糧販売所に供給されるものなのに、違法に販売しているということで、安全員(警察官)が取り締まりに乗り出し、見つけ次第有無を言わさず没収しているとのことだ。

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安全部(警察署)はまず、小売商を摘発し、コメの出どころを聞き出して、卸売商を摘発しようとしたが、その動きを察知した彼らは、コメの取り引きを一時的に取りやめて、行方をくらませてしまった。

今度は、小売商も市場を利用せず、路上でコメを販売して取り締まりを避けようとしており、コメ流通網を一網打尽にしようとする当局の目論見はうまく行っていないようだ。

このような取り締まりは、両江道(リャンガンド)の恵山(ヘサン)でも行われていると情報筋は伝えている。別の情報筋によると、咸鏡北道(ハムギョンブクト)の清津(チョンジン)の安全部は、コメを販売して摘発されれば銃殺刑に処すという警告まで発している。

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(参考記事:「個人がコメを売ったら銃殺刑」という北朝鮮の無茶な方針

さて、消費者の反応だが、経済的に余裕のある人の間では、販売所ではコメを安く買えると好評だが、余裕のない人は依然として小売商を利用している。経済難の中、1キロのコメを買う現金すら持っていない人々は、多少安くとも現金払いを求められる国家食糧販売所ではなく、ツケのきく小売商を好んで利用しているとのことだ。

厳密には違法ながらも、数十年にわたってなし崩し的に行われてきた市場でのコメ販売。「上に政策あれば下に対策あり」で生き抜いてきた北朝鮮の商人を抑え込むのは、至難の業と言えよう。

(参考記事:穀物販売権の独占を目指すも後退を強いられた北朝鮮