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北朝鮮において牛は、農耕に欠かせない重要な生産手段とされている。生産手段の個人所有が禁じられていることから、牛を個人の所有物として飼うことはもちろん、屠畜して販売することも禁じられ、違反者は単なる経済犯ではなく政治犯扱いとなる。

刑法の91条から94条で、国家財産の窃盗、横領、搾取に最高で労働教化刑(懲役刑)10年と定めているほどの重罪だ。許可なく食べたり販売したりして銃殺される人もいたほどだ。

(参考記事:北朝鮮では「牛肉を食べたら銃殺」だった

そんなご禁制の牛肉が市場で売られることが増え、司法当局は重大な事案と見て捜査に乗り出したと、米政府系のラジオフリーアジアが報じている。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると、清津(チョンジン)市内の市場で、牛肉を買い求める人が急増し、供給量も増えている。かつて、市場で売られる肉といえば豚肉がほとんどだった。牛肉は違法に密売されていたが、買い求める人はあまりいなかった。

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ところが、最近になって豚肉の供給量が減少した。というのも、この地域の市場で売られている豚肉の一部は中国から密輸されたものだが、家畜伝染病「アフリカ豚コレラ」(日本で発生している「豚コレラ」とは別のもの)が中国を経て北朝鮮国内に広がったことで、当局が豚肉の販売、流通を禁止したことで密輸ができなくなり、国内供給も減ってしまった。その穴埋めとして増えたのが牛肉である。

(参考記事:韓国の情報機関「北朝鮮の北西部で豚が全滅」

情報筋は「牛の屠畜が禁止されているわが国(北朝鮮)で、こんなに牛肉の取り引きが活発になったのは初めてのこと」だと驚きを隠せずにいる。

現在の取引価格は、牛肉は1キロで3万5000北朝鮮ウォン(約450円)。豚肉が2万北朝鮮ウォン(約260円)前後で売られている。このように、牛肉は高いため、あまり買う人もいなかったが、年が押し迫るにつれ、牛肉を買い求める人が急に増え、牛肉を取り扱う売台(ワゴン)も増えた。ただし、あくまでも違法行為なので、市場管理人とグルになって別の肉であると偽装した上で売っている。

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あまりに多くなったことから、保安員が取り締まりに乗り出した。牛肉を売っている商人に「これは中国から密輸したものか、国内で屠畜したものか」と詰問するという。どちらも違法行為なのだが、前者より後者のほうが罪が遥かに重いということなのだろう。

別の情報筋によると、一部の協同農場や個人が、登録せずに密かに育てた牛を屠畜して、中国から密輸したものであると偽って販売しているという情報を入手した司法当局は、牛肉の出所を探っている。

かつて牛の飼育は厳しく制限されていたが、今では若干緩和された。工場、企業所、農場では役所に登録した上で牛を飼育しているが、その数をごまかして少なめに登録、食肉にして販売することで収益を得ているという。

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それで牛肉の流通量が増え、人々もかつては食べることのなかった牛肉を口にする機会が以前よりは増えたという。

情報筋は、市場から一時的に牛肉が姿を消す可能性もあると指摘しつつも、こう説明した。

「朝鮮労働党や朝鮮人民軍(北朝鮮軍)系列の力のある工場、企業所が違法に牛を育てて市場に流しているので、司法当局の捜査がどこまで届くか見ものだ」