北朝鮮で相次ぐ「無念の死」…金正恩氏「やめろ」命令も素通り

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北朝鮮ではよく、「速度戦」と呼ばれる突貫工事キャンペーンが行われる。指導者の記念日などに完成日を設定し、無理やり工事を進めて成果だけを追求する。そのせいで、手抜き工事や事故が相次いでいる。

金正恩党委員長も、速度戦のやりすぎには警告を発している。2014年6月20日の北朝鮮の朝鮮労働党機関紙・労働新聞は、金正恩氏が当時建設中だったタワーマンション団地の現地指導を行った場で、「建設においては一にも二にも質の保証に優先的な関心を置くべき」「千年責任、万年保証のスローガンの元に、建築物を百点満点で完成させよ」と指示したと報じている。

しかし、長年の習慣からはそう簡単に抜け出せないようで、またもや速度戦の犠牲者が発生してしまった。

(参考記事:「事故死した98人の遺体をセメント漬け」北朝鮮軍の中で起きていること

デイリーNKの内部情報筋によると、先月中旬に平壌と南浦を結ぶ高速道路の補修工事中に死亡事故が発生した。夜間作業にあたっていた人民武力省の道路局所属の兵士2人がセメントと水を混ぜた容器を運んでいたところ、橋の欄干の隙間に渡した板の上の歩いていた際に足を踏み外し、川に転落した。

(参考記事:「手足が散乱」の修羅場で金正恩氏が驚きの行動…北朝鮮「マンション崩壊」事故

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周囲にいた兵士たちは悲鳴を聞きつけ、救助に乗り出そうとしたが、辺りは真っ暗でどこにいるのか見当すらつけられなかった。夜が明けてからようやく本格的な捜索が始まり、数百メートル離れた川岸で2人を見つけたが、すでに事切れた後だった。

夜間作業なのになぜ真っ暗なのか。それは照明設備がないからだ。

一時は好天の兆しを見せていた北朝鮮の電力事情だが、国際社会の制裁で再び悪化し、首都・平壌ですらまともに電力が供給されなくなっている。

(参考記事:長引く制裁で首都・平壌も電力難「一日に1時間しか電気来ない」

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そんな状況にもかかわらず、補修工事を請け負った人民武力省は、工期短縮のために作業時間を午前5時から午前0時まで行うことにした。つまり、速度戦だ。

照明もなく真っ暗な状態で兵士は1日16時間も働かされていた。1日3回の食事に加え、夜食まで提供するなど、飲まず食わずの別の作業場に比べれば厚遇されていたようだが、照明設備が整っていたとしても無理がある長時間労働で、「夜になると居眠りしながら働く兵士が多い」(情報筋)状況となっており、事故は予見されていたも同然だった。

(参考記事:「15万人の血と涙」で建設が進む金正恩氏の「ブラック・リゾート」

また、情報筋は安全設備に問題があったことも指摘している。工事現場を覆う「安全膜」が、理由は定かでないが撤去されていたというのだ。これでは、危険な箇所がどこなのかもわからない。

(参考記事:金正恩氏の背後に「死亡事故を予感」させる恐怖写真

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道路局は、安全規定を守らなかった2人の責任だと、責任回避に汲々としている。

このような無責任体制は、北朝鮮全般に蔓延している。正直に責任を認めれば関係者の重罰は避けられない。また、連座制でどこまで累が及ぶかわからない。「死人に口なし」で亡くなった人をなすりつけておけば、生きている人が助かるという北朝鮮なりの「人を生かす」方法なのだ。

(参考記事:「死人を処刑」して生きている人を救う北朝鮮の独特な人命尊重

しかし、おそらくまともに補償を受けられないであろう兵士の遺族からするとたまったものではない。本当に人を生かすのは、国の体面や工期よりも、人の命を何よりも重要視する体制だ。「人間中心の主体(チュチェ)思想」はどこに行ったのか。

(参考記事:金正恩氏、日本を超えるタワーマンション建設…でもトイレ最悪で死者続出