北朝鮮、脱北女性を拷問した将校を厳重処分…人権問題を意識か

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北朝鮮の秘密警察、国家保衛省(保衛部)は、国民の思想や動向を監視、統制する役割を果たしてきた。政治犯収容所の運営や公開処刑も担当しており、恐怖政治の象徴的な存在と言える。ところが最近、従来と同じように脱北者を拷問した要員が、降格処分を受ける事件が起きた。

デイリーNKの内部情報筋によると、中国で逮捕された40代女性のソンさんは、北朝鮮に強制送還された後、身柄を咸鏡北道(ハムギョンブクト)穏城(オンソン)の保衛部に移された。出稼ぎに行ったのか、人身売買の犠牲になったのかは定かでないが、ソンさんは10年もの間、中国に住んでいた。

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事件が起きたのは今月3日のことだ。当直のキム少尉(20代後半)は、「祖国を裏切った犯罪者に屈辱を与える」との理由で、ソンさんを1時間に渡って廊下を這わせ、着ていた服で床を磨かせるなどの虐待を行った。

ソンさんが「死にそうだ、助けて」と訴えると、キム少尉は反抗的だとの理由で、靴と棍棒で30分以上殴りつけた。

それから数時間後。勤務交代でやって来た別の保衛員が、意識を失って倒れているソンさんを発見、上官に報告した上で病院に搬送した。ソンさんは腹部、特に子宮の出血多量で手術を受けて一命を取り留めた。

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翌朝、郡保衛部は執行委員会を開き、「一般人民を殴った」との理由で、キム少尉を戦士(二等兵)に降格させ、国境警備隊に左遷した。8階級も降格させられた形だが、本来国家保衛省には「戦士」の階級はない。

これに対して保衛部の内部はもちろんのこと、ソンさんの家族、一般市民に至るまで、 「罪人の人権など重要視されなかった昔とは変わった」 「非法越境者(脱北者)を反逆者とみなしていた以前とは大きく変わった」などと、皆一様に驚きを示している。

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今回の処罰は、金正恩党委員長の指示が影響しているものと思われる。金正恩氏は2016年の末から翌年初めにかけて、職権を乱用して金儲けをするな、住民に対する暴行、拷問などの人権侵害をやめるようにとの指示を下したと伝えられている。

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情報筋によると、保衛部に対しては「住民に対する暴行と拷問などの人権蹂躙をなくせ」という指示が繰り返し下されている。そのため容疑者に対する暴行は、金正恩氏への不服従とみなされる可能性もある。北朝鮮では、金王朝の権威を傷つけるような行為は政治的事件に発展する場合もある。今回のケースでは、責任を問われる恐れを感じた上層部が、キム少尉をスケープゴートにしたのかもしれない。

北朝鮮は長年に渡って人権問題で国際社会からの批判を受け続けていた。表向きは反発しつつも、批判を意識し、人権状況の改善と「正常国家」であるとアピールするためにこのような措置を取ったことも考えられる。

しかし、北朝鮮の独裁体制を支え続けてきた暴力や拷問などが、そう簡単になくなることはないだろう。金正恩氏の独裁権力が、恐怖政治(暴力)によって支えられている状況に変わりはないのだ。

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韓国の統一研究院が今年4月に刊行した「北朝鮮人権白書2018」は、「北朝鮮には刑法と刑事訴訟法の(拷問禁止の)規定があるにもかかわらず、刑事事件の処理過程で拷問や非人道的処遇が頻繁に発生し、被疑者の尋問において自白を引き出すための手法の一つとして拷問の使用が確立するなど、拷問が蔓延している」と指摘している。

(参考記事:殺人・拷問・強姦…金正恩氏の「極悪警官245人」の手配書