つまり金正恩氏は、神秘性の維持を重視していた父・金正日総書記と異なり、悲しいことがあれば泣きもするしまずいことがあれば謝罪もするという、自分の人間的な側面をアピールしてきていたわけだ。それなのに、ここへきて朝日新聞の記事に「キレる」というのは、どういうことだろうか。同紙ソウル支局長が記事の中に、金正恩氏の「痛いところ」を突く内容があったからではないのか。
そもそも金正恩氏は、この程度の暴露報道にうろたえている場合ではなかろう。同氏は視察したスッポン養殖工場の管理不備に激怒して支配人を銃殺し、その際の動画をテレビで公開したことがある。そしてその一部始終は、国外でも知られてしまっている。
(参考記事:【動画】金正恩氏、スッポン工場で「処刑前」の現地指導)たった1本の新聞記事に目くじらを立てるより、こうした横暴な行いを慎む方が、よっぽど得るものが多いと思うのだが。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。