「地雷爆発」事件の知られざる背景
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面韓国軍合同参謀本部は21日、朝鮮人民軍(北朝鮮軍)の下級兵士1人が韓国に亡命したと発表した。同日午前8時4分ごろ、軍事境界線中西部の非武装地帯(DMZ)で、韓国軍見張り所に向かってきたという。
先月13日に北朝鮮軍兵士が銃撃を受けながら亡命した事件から間もないだけに、緊張を誘うニュースと言える。
今回は銃撃もなく、その後も北朝鮮側に目立った動きはないというが、このような出来事が続けば不測の事態も起こりかねない。実際、過去には危機的な状況もあった。
吹き飛ぶ韓国軍兵士
北朝鮮と韓国は2015年8月、北朝鮮側がDMZに仕掛けた対人地雷により、韓国軍兵士が身体の一部を吹き飛ばされ重傷を負う事件があった。その背景にあったのが、北朝鮮軍兵士の相次ぐ亡命である。
DMZでは近年、今回のように北朝鮮兵士が徒歩で南側に入り、亡命するなどの出来事が相次いでいる。兵士らが飢えや虐待に苦しむ北朝鮮軍の軍紀びん乱は周知のとおりだが、韓国軍の警備に欠陥があるのも明らかだった。
(参考記事:北朝鮮女性を苦しめる「マダラス」と呼ばれる性上納行為)人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面
DMZに入り込む北朝鮮兵士に対し、韓国軍は必要なら発砲するなりして警告せねばならない。そのようなリスクがあれば、北朝鮮兵士が最前線で脱北するのは簡単ではなかったろう。ところが韓国軍では、亡命兵士が見張り所に入り、見張り所のドアをノックするまで気付かないといった事態が起きていたのだ。
これを受け、おそらく北朝鮮軍は仕方なく、兵士の脱走を防ぐための対人地雷を埋設したのだ。
(参考記事:北朝鮮、軍事境界線付近に地雷埋設か 韓国軍が警戒)ところが不運なことに、この地雷に偵察任務中の韓国軍兵士が接触してしまったのだ。いずれにせよ、DMZでの地雷埋設は明白な休戦協定違反だ。ここから双方は非難の応酬を繰り返し、危機がエスカレートしてしまったのだ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面その過程で韓国軍は、北朝鮮の地雷が爆発し、兵士らの身体が吹き飛ばされる瞬間の動画を公開している。仲間が傷つけられる場面を見た韓国軍将兵や国民の中には、強い復讐心を抱く者も少なくなかった。韓国側は北朝鮮に軍事的圧力をかけ、北側もこれに対抗する動きを見せる。
(参考記事:【動画】吹き飛ぶ韓国軍兵士…北朝鮮の地雷が爆発する瞬間)この時、韓国と北朝鮮はすんでの所で踏みとどまり、話し合いにより危機を回避した。しかし今後、同じような事態が生じた場合に、話し合いで解決できるとは限らない。その後、北朝鮮の核兵器開発が大きく進展し、韓国軍が圧倒的に優位だった2015年8月とは、戦力バランスが変わってきているからだ。
とは言っても、北朝鮮軍兵士の亡命をこちら側から止めることもできない。危機が生じた際、それを安全に乗り越えられるかどうかは、ひとえに韓国と北朝鮮の対応にかかっているのだ。
(参考記事:必死の医療陣、巨大な寄生虫…亡命兵士「手術動画」が北朝鮮国民に与える衝撃)高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。