そしてその放送内容には、韓国社会の豊かな現実や北朝鮮の体制を批判する内容とともに、韓国の美少女歌手(ガールズグループ)らが歌うヒット曲も含まれているとされる。
それにしてもなぜ、地雷爆発の報復でK-POPを流すのか。それは、政治的な放送内容は北朝鮮側の思想教育で上書きされてしまう可能性があるが、人間の感覚を刺激する音楽はいつまでも脳裏に残るためだ。
また韓国と対峙する最前線では、人里離れたところに少人数の部隊が配置されているケースが少なくない。そういった場合、部隊全員がグルになり、リアルタイムで韓国のテレビ放送を受信。美人タレントの出演するバラエティ番組にクギづけになっているという。
今回の亡命兵士の動機に、本当にK-POPや韓流ドラマが関係あるのかどうかを知るには、本人が語るのを待たなければならない。しかし、彼が亡命前から韓国の音楽を好んでいたこと、そして海外から流入するエンタテインメントが、徐々に北朝鮮軍を動揺させていることは間違いない。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。