中国に売り飛ばされた北朝鮮女性の今…「人身売買」犠牲者の運命

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貧困や抑圧から逃れるために北朝鮮から脱出した女性が、中国でブローカーに監禁され性的搾取を受けたり、人身売買の被害に遭ったりする事例は後を絶たない。こうした中、韓国のキリスト教系新聞の国民日報は、人身売買被害にあった脱北女性のケースを紹介している。

女子大生も人身売買の犠牲に

中国のある地方で、中国人の夫と2人の娘とともに暮らすキムさん(仮名:36歳)は19年前、中国の奥地に住むこの男性のところへ売られてきた。

キムさんのように、中国の農村や奥地へ売られるケースは珍しくない。ある脱北ブローカーによると、彼の手助けで脱北した女性の7割から9割が、中国側で売り飛ばされてしまったという。最初から人身売買組織に騙されていた人もいれば、中国の親戚に援助を求めに行ったところ「嫁にでも行け」と促され、仕方なしに自分自身をカネで売るようにして、中国人男性の元へ行った人もいるとのことだ。

キムさんは売られてきた当初は、うつ病など様々な病気に悩まされていた。しかし、キリスト教の教会に通うようになってからは、希望を持てるようになり、人生が変わったと感じたという。さらに、教会のアドバイスで養蜂事業をはじめた。しょっちゅうハチに刺されるなど苦労の連続だが、夫婦が作るまじり気のない蜂蜜は、いつしか消費者の好評を得るようになった。今では安定した収入を得ているという。

中国人の夫は当初、キムさんが教会に通うことについて、「韓国に逃げてしまうのではないか」と心配し、反対していた。しかし、教会関係者が養蜂事業の手助けをし、さらに事業も軌道に乗ったことから今では2人で教会に通っているという。

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ただし、国民日報の記事は中国国内における彼女の法的地位については一切触れていない。キムさんはいまだに不法滞在である可能性が高い。

中国当局は、脱北者を「経済的な問題で中国に来た不法越境者であり、難民ではない」とみなし、摘発して北朝鮮に強制送還する姿勢を崩していない。そのため、数万人に達すると言われている脱北者は、息を潜めて暮らすことを余儀なくされており、常に人権侵害の危険性にさらされている。

夫婦を支援している「殉教者の声」というキリスト教団体は、1967年にリチャード・ワームブラウンド牧師が、共産主義体制下にいる人々への布教のためにルーマニアで設立し、現在では活動範囲を全世界に拡大している。2003年に設立された韓国支部は、毎年5万冊の聖書を風船に入れて北朝鮮に飛ばしたり、北朝鮮国内の地下教会の設立を支援したりする活動を行っている。

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中国における脱北者の統計は存在しない。また、大々的な調査も行われていないため、このような実例がどれほど存在するかは不明だ。そもそもこの記事も、教会が活動資金の寄付を募るための宣伝の一環とも言える。

人柄の良い夫と自らの努力で今の生活を築き上げたキムさんのようなケースは、決して多いとは言えない。今でも、売られて行った女性の相当数が、夫の暴力に苦しんでいるのだ。なによりも、そのような目に遭っても、中国当局により強制送還されるのが恐ろしくて、保護を求めることすらできないのが現実なのである。

キムさんが仮に不法滞在だとしたら、今は安定した生活を送っていても、中国当局に摘発されたらそれまで築き上げたものを一瞬で失ってしまうのだ。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記