第61回国連女性の地位委員会(米ニューヨーク)の並行行事として17日に行われたシンポジウム「脱北難民女性:中国での困窮と人身売買」についてはすでに本欄でも言及したが、そのさらに詳しい内容が伝わって来た。
米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)によれば、2008年に脱北し、韓国のNGO・ニューコリア女性連合で代表を務めるイ・ソヨン氏は、中国では数万人の脱北女性が公安当局の取り締まりと強制送還を恐れ、息を潜めて暮らしており、人身売買の被害に遭う女性が後を絶たないと強調した。
そして衝撃的なのは「20代の女性は4000ドル(約45万円)、40代の女性は2000ドル(約22万5000円)の『値』がつけられて売買されている」との証言である。
米国の人権団体・北朝鮮人権委員会(HRNK)のグレッグ・スカラチュー事務総長は、北朝鮮女性は国内でも国外でも人権侵害の対象になっているが、国際社会の関心と保護を受けられていないと訴えた。
北朝鮮の女性たちは、どのようにして人身売買の被害に遭うのだろうか。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面元脱北ブローカーで、自身も脱北し現在は韓国で暮らすイ・ヒョヌ氏は、2004年から2006年まで人身売買に加担していた過去を振り返り、今年1月デイリーNKの取材に次のように語っている。
北朝鮮にも中国にも脱北ブローカーの組織があり、ブローカーは市場に行って脱北したい人はいないか聞いて回る。そういう情報は商人から聞き出す。脱北希望者を数人集めた上で、国境沿いの会寧(フェリョン)のはずれの村から、あらかじめ買収しておいた国境警備隊の軍人の手招きで国境の川を渡る。
中国側の組織から連絡が来れば、女性たちをバスに乗せて客のもとまで連れていく。そうして売った女性は4〜50人。幸せに暮らしている人もいるが、ほとんどが奴隷のように働かされ、暴力を受けている。彼女たちはそんな中でも少ない小遣いを貯金して、北朝鮮に残してきた家族に送金する。家族を食べさせるのが彼女たちの目的だからだ――。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面子どもを連れて逃げ出したが捕まり、逃げられないように足首を粉々に砕いてやると脅迫された人もいれば、夫に問題があり子どもが授からないのに、お前のせいだと暴力をふるい、義理の弟との関係を強いられた人もいたという。
また、望まぬセックスワークを強いられる脱北女性も少なくない。米ワシントン・ポストは、脱北女性が中国でアダルトビデオチャットをやらされていたことを報じている。
ブローカーは、取り締まりを逃れ少しでも長く中国に滞在し、カネを稼いで北朝鮮に残してきた家族に送金したという脱北女性の立場につけこみ、人身売買の標的にしている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面中国当局が、脱北者を強制送還するという方針を変えない限り、脱北女性は人身売買の被害をどこにも訴え出ることができない。中国の方針転換なくして、人身売買の犠牲を減らすことは難しいのである。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。