13日にマレーシアで殺害された北朝鮮の金正恩党委員長の異母兄・金正男(キム・ジョンナム)氏が以前、父親である金正日総書記に弟(正恩氏)からの脅威を訴える手紙を送っていたと、米政府系のラジオ・フリー・アジアが21日に伝えた。
RFAに対北朝鮮情報関係者が明かしたところによれば、正男氏は2010年6月29日、マカオから平壌へファクスで手紙を送信。同じものを妻にもメールで送った。
「運命受け入れる」
手紙を入手して分析したこの関係者によると、正男氏は手紙に「しばらく前に私と私の家族に関連のある人すべてを『殺生簿』に載せ、国家安全保衛部の者が捕まえて行った」と記しているという。
国家安全保衛部(現国家保衛省)は秘密警察であり、殺生簿はいわゆる「暗殺リスト」「殺すリスト」のことである。
正男氏の関係者を巡っては2009年4月、平壌市中心部にあるウアム閣という名の特閣(別荘)が国家安全保衛部の急襲を受け、彼の側近らが逮捕される事件があったとされる。また、正男氏が件の手紙を送った後の話ではあるが、米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)は最近、正男氏の関係者多数が2011年に処刑されたと報じた。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面正男氏は、こうした事態が「国家安全保衛部の者らの後継者(正恩氏)に対する過剰な忠誠のためか、後継者の指示かは分からない」としながらも、「後継者は大きな絵を描くように遠大な構想を持ってパパ(正日氏)の偉大な業績を継承するために努力しなければならないと思う」と記しているという。
これは、正恩氏に自分に対する敵意を捨てさせるよう、父親に促したものと読める。
さらに正男氏は、「海外で家族と静かに暮らしたくとも、自分の身分のために西側メディアの標的となっているが、パパの息子として当惑することなく振る舞っている」として、外国メディアとの付き合いに他意はないことを伝えようとしていたという。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面正男氏は日本などの記者たちと自由に言葉を交わしていたように見えて、父親や本国の権威に対しそれなりの配慮をしていたということだ。「喜び組」を暴露して殺された従兄弟の末路を知っているだけに、それも当たり前のことかもしれない。
さらに手紙では、「今のように海外で家族と暮らすことが、私の運命であると粛然と受け入れている」「私はパパの息子に生まれただけで、革命の偉業を継承する後継者の序列に立ったことがない」「資質不足と自由奔放で放縦な生活習慣によって心配をかけ、大変なトラブルもたくさん起こした」と述べ、権力から距離を置くことを言明していたとのことだ。
しかし、この手紙が金正日氏のもとに届いたかどうかは確認されていないという。件の関係者は、「北朝鮮の報告体系上、権力の核心から離れていた金正男氏の手紙が金正日氏に伝えられた可能性は低いと思う」としている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面そのことは正男氏も承知していたようで、「パパの健康だけを願う」としながら、「この手紙を読んでもらえるかはわからないが、せめて代わりに読んだ人が、私の心情を分かってくれるものと信じる」と結んでいたという。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。