韓国の情報機関、国家情報院(国情院)は19日、国会情報委員会の国政監査で、金正恩党委員長の実兄・正哲(ジョンチョル)氏が精神の不安定な状態にある模様だと明らかにした。また、実妹の与正(キム・ヨジョン)氏は権力乱用に走っているという。
国会情報委が行ったブリーフィングによれば、正哲氏は権力から遠ざけられ、監視を受けながら生活している。また、酒に酔えば幻覚が見え、瓶を割って暴れるなど精神が不安定な状態にあるという。
「大阪出身」という秘密
正哲氏と言えば昨年5月、ロンドンに現れ、2日連続でエリック・クラプトンのコンサートを鑑賞するなど、かなり自由なライフスタイルを楽しんでいるように見えていた。精神の不安定な状態にあるとは、驚きである。
一方の与正氏は、朝鮮労働党宣伝扇動部で副部長の要職にある。党の副部長と言えば、日本の中央省庁の審議官から事務次官級に相当する高級官僚だ。
与正氏は、正恩氏の現地指導に頻繁に同行していることで知られる。労働新聞の写真などを見ると、いつも明るい笑顔を浮かべており、いかにも仲の良さそうな兄妹だ。また、その自然体の表情は、「話の通じる人物なのではないか」との期待を、一部の北朝鮮ウォッチャーに抱かせていたりもする。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面とはいえ彼女が、北朝鮮において「普通の人」でないのは確かだ。昨年5月には、彼女の学生時代の友人らが、些細な言動のために「大量失踪」した事件もあった。
そして国情院の報告によると、最近では些細なミスで部下を処罰するなど、権力乱用に走っているという。
宣伝扇動部は、国民の思想や情報の統制を司る部署だ。北朝鮮で外部の情報に触れた人々が、銃殺を含む厳しい処罰を受けているのは、周知のとおりである。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面与正氏は思想統制ではなく、政治行事を担当しているとの情報もあるが、いずれにしても、実兄による恐怖政治から遠く離れた所にいるわけではない。「権力の乱用」と見られる行動があったとしても、不思議ではなかろう。
しかしながら、正哲氏と与正氏はいずれも、正恩氏にとってかけがえのない存在であるはずだ。日本の大阪にルーツがある正恩氏に対しては、北朝鮮幹部らも陰で「ニセモノ説」を囁いていると言われる。
正恩氏が本当に分かり合えるのは、血を分け合った兄妹しかいない。3人が支えあうことなしに、金正恩体制の安定は難しいのではないか。あるいは、正恩氏の暴走は兄妹をも巻き込み、破滅へと突き進むのだろうか。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。