北朝鮮外交官の亡命とアニメ「ドラゴンボール」の知られざる関係

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韓国へ亡命して話題となっている太永浩(テ・ヨンホ)駐英北朝鮮公使は、妻と2男1女の5人家族だ。

英国メディアによれば、次男のグムヒョクさん(19)は名門大学への進学が決まっていた秀才とのことだが、彼にはほかにも、祖国・北朝鮮のイメージとはかけ離れた横顔があったようだ。

本国で待つ「地獄」

好きなミュージシャンはリンキン・パークとエミネム。好きなアニメは「ドラゴンボールGT」で、趣味はゲームとネットサーフィン。13歳の頃からフェイスブックに親しんでいたという。

欧米や日韓の10代にはありふれたプロフィールだが、北朝鮮の体制を知る人ならば、父親が本国からの帰国命令に従った場合のグムヒョクさんの運命を考えたとき、背筋に冷たいものを感じずにはいられない。

死刑の危険性も

北朝鮮は、韓流やハリウッド作品など外国映画を見ただけで厳しく罰せられる国だ。10代の未成年といえども容赦はなく、女子高生らが公開裁判にかけられた例もある。最近においても、当局に逮捕された女子大生の悲劇が伝えられたばかりだ。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

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北朝鮮当局も、外国製アニメに関しては今まで特段の措置を取って来なかったが、最近になってついに取り締まりを始めたようだ。標的になっているのは、たとえば米国のアニメ「ザ・シンプソンズ」。理由は、どうやら故金正日総書記氏を小馬鹿にした場面があるかららしく、見た人は銃殺を含めた重罪に処せられる危険性もある。

グムヒョクさんがファンだというドラゴンボールGTが、そこまで厳しい取り締まりの対象になるかどうかはわからないが、ともかく、北朝鮮では外国文化を楽しむこと自体にとてつもないリスクを伴う。

太公使の英国での駐在は10年に及んだというから、グムヒョクさんはほとんど外国文化しか知らないということになる。そんな彼が、北朝鮮において何ら「失言」を漏らさず、安全に世渡りをすることなど、ほとんど不可能に思える。

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一説に、韓国などに亡命した北朝鮮の海外駐在員の中には、子どもから「逃げよう」と迫られて決断したケースもあるという。

いまも世界のどこかで、これと同じ悩みを抱える北朝鮮の駐在員が、脱北に踏み切るかどうかで揺れているかもしれない。

高英起(コウ・ヨンギ)

1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。

脱北者が明かす北朝鮮 (別冊宝島 2516) 北朝鮮ポップスの世界 金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔 (宝島社新書) コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記