7月3日は、西日本や東日本太平洋側を中心に気温が上がり、各地で「真夏日」になった。真夏日になれば、売り上げが伸びるといわれているのがビールとアイスクリーム。北朝鮮でも、夏日にはこの二つが人気を呼ぶ。
北朝鮮を代表するビールといえば「大同江(テドンガン)ビール」。訪朝する外国人の評判もよく、今では「北朝鮮産地ビールといえば大同江」として定着しつつある。北朝鮮の大人たちも大好きだが、ビールの配給をめぐって、北朝鮮当局が実にセコい真似をして、庶民から不満を買うこともあるようだ。
一方、アイスクリームはどうなのだろうか。北朝鮮には、3種類のアイスクリームが存在する。まず「アイスクリーム」と呼ばれるものは、トンジュ(金主、新興富裕層)の業者が中国から機械と原材料を取り寄せて製造されたもの。また、「カカオ」と呼ばれるものは、零細な個人業者が国営工場の設備を借りて製造されたものだ。
そして、北朝鮮でアイスクリームの代名詞となっている「エスキモー」。日本の人気にあやかったという説もあるが、そもそもエスキモーとは、チョコレートでコーティングされたバニラアイスクリームの商標で1920年に米アイオワ州で売りだされた。これがロシアを経て北朝鮮にも伝わったという説が有力だ。ただし、北朝鮮ではチョコレートでコーティングされていなくても、アイスクリームをエスキモーと呼ぶようになり、商品名としてエスキモーと呼ぶようになった。
「エスキモー」は、各貿易会社が平壌市内に構えている食品工場が製造している。外国から導入した設備、技術、原材料を使って作るので、従来のアイスクリームに比べるとちょっとお高いが、美味しいので、飛ぶように売れているという。平壌を中心に販売されていたエスキモーは、トンジュ(金主)と呼ばれる新興富裕層をターゲットにしたと見られる。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面慢性的な経済難に見舞われている北朝鮮だが、トンジュだちは、「ピョンハッタン(平壌とマンハッタンを合わせた造語)」と呼ばれる平壌市内の一角で、ZARAやエイチ・アンド・エムなどのファストファッションを着こなすなど、贅沢な消費生活を送っている。
一方、デイリーNK内部情報筋によると、このエスキモーが地方都市でも大々的に売られるようになったという。実は、国際社会の経済制裁により、資金難に苦しんでいる北朝鮮当局が、打開策として目をつけたようだ。販売人は駅前、市場、交差点などにバッテリーに繋いだ冷凍庫を置いて、エスキモーを売っている。
昨年までは平壌市内にしか出荷していなかったが、今年からは平壌の貿易会社と、平壌郊外の物流拠点、平城(ピョンソン)のトンジュが手を組んで、地方にも出荷するようになった。平城のトンジュは、平壌の貿易会社から卸してもらったエスキモーをトラックに積み、各地方のトンジュに出荷するという形だ。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面平壌の食品会社が、地方のマーケットに殴り込みをかけたのは、「忠誠の資金」つまり金正恩氏への上納金を確保するためだ。北朝鮮当局は、各地にトンジュ向けのレストランや店、レジャー施設を次々と建設している。消費を煽ることで、トンジュの懐にある外貨を引き出す目的だ。それだけでは充分ではなかったのか、今度は庶民の懐を狙いを定めたようだ。
それにしても、1本1000北朝鮮ウォン(約13円)のエスキモーを売って、統治資金を確保するとは、随分悠長な話だ。そもそも、外貨不足であたふたする前に、金正恩党委員長をはじめとする、指導層の分不相応な贅沢行為を改めるべきだろう。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。