米国務省は6月30日、人身売買に関する年次報告書を発表した。その中で北朝鮮は、14年連続で最悪の人身売買国として評価された。
北朝鮮については最近、国内での人権侵害に加え、外貨獲得のため海外に派遣された労働者たちが過酷な環境に置かれていることについても批判が集まっている。
凄惨なリンチ
報告書は、多くの労働者は劣悪な環境での仕事を強いられ、移動、通信も制限され、厳しい監視のもとで暮らしていると指摘し、逃げ出した場合には本人のみならず、北朝鮮に残してきた家族に制裁が加えられるとしている。1日に12時間から16時間、場合によっては20時間もの長時間労働を強いられ、休みは月に1~2日しか与えられない。
この問題については、現場から逃げ出そうとした労働者がアキレス腱を切られたり、掘削機で足を潰されたりという凄惨な私刑(リンチ)を受けていることが、デイリーNKの取材でもわかっている。
少女たちも被害
一方、海外においては脱北者もひどい状況に置かれている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面報告書は、北朝鮮当局の弾圧を避けて国を脱出した少なくない人々が、中国で人身売買の犠牲になっていると指摘している。中国に脱出した人のうち、1万人に達する女性が強制結婚、望まないセックスワーク、家事労働などで苦しめられているという。
付言するなら、これは成人女性に限った話ではなく、幼い少女たちも人身売買組織などに狙われている。
報告書は北朝鮮国内において、男性、女性、子どもが強制労働と望まないセックスワークの対象となっているとも指摘している。政治犯収容所には、正式な裁判を経ていない8万人から12万人が収容されており、子どもを含むすべての収容者が、殴打、拷問、レイプ、医療や食料の不足に苦しめられ、極めて非衛生的な環境のもとで、長時間の労働を強いられている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面報告書は北朝鮮政府に対して、政治犯収容所の収容者と海外派遣労働者の強制労働と、北朝鮮に送還された人身売買被害者を死刑を含む重罰に処すことを止め、国内外の人身売買の被害者を支援し、人身売買を重大犯罪と規定し、犯人を処罰することを求めている。
また、海外派遣労働者とまともな労働契約を結ぶこと、労働者に正当な賃金を支払うこと、転職の自由を認めることなどを求めている。
この報告書では、北朝鮮とともにアルジェリア、ミャンマー、イラン、ロシア、シリアなど27カ国を最低の「段階3」とした。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面「段階1」と評価されたのは、西欧のほとんどの国、米国、韓国、台湾、フィリピンなど36カ国、「段階2」とされたのは、日本を含む122カ国だ。日本は、G7では唯一の「段階2」である。
報告書では、日本の外国人研修制度について「実質的な強制労働になっていることが多い」と指摘。「援助交際」や「JK(女子高生)ビジネス」、日本人男性の海外への児童買春旅行が行われていることについて「人身売買の排除にむけた最低限の水準を満たしていない」として、12年連続で「段階2」とした。
また、2000年に国連総会で採択された人身取引に関する議定書を批准していない21の国に、北朝鮮と並んで日本を挙げるなど、日本について非常に厳しい見方をしている。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。