英紙・ガーディアンは15日、世界で最も影響力のある大富豪たち(20歳から35歳まで)を発表。「誕生から比較的短期間で世界の状況を著しく変えた大富豪」のトップとして、「33歳の北朝鮮のリーダー」金正恩第1書記の名前を挙げた。
正恩氏に続き2番目に言及されているのはフェイスブック創業者マーク・ザッカ-バーグ氏(31歳)で、3番目は22歳の歌手ジャスティン・ビーバーさん。
もっとも、ガーディアンは正恩氏について皮肉たっぷりに、こう述べている。「家族の処刑すら厭わないこのキムという若造は、1月の自分の誕生日を4回目の核実験で祝った。数週間後には空にロケットを打ち上げ、世界的な非難と、孤立した国をいっそう孤立させる、さらなる制裁をもたらした。」実はこの記事、真面目な分析というよりヒマつぶし向けのコラムなのだが、正恩氏が核開発や弾道ミサイル発射で国際情勢に影響を与えていること自体は事実だ。
一方、正恩氏のセレブな生活ぶりはつとに知られている。米政府系のボイス・オブ・アメリカ(VOA)によると、脱北者でかつて金正日氏の警護員を務めてきたイ・ヨングクさんは、スイスのジュネーブで開かれた人権問題をめぐる会合で金一族の豪華生活について証言。正恩氏が全国に大規模な超豪華別荘を14も持っていると述べた。
また、韓国の国家情報院は、正恩氏と李雪主(リ・ソルチュ)夫人が愛用する高級ブランド品の数々を明かしている。
人気記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面正恩氏がこうした贅沢を楽しむための原資は言うまでもなく、祖父・金日成氏と父・金正日氏から受け継いだものだ。そしてその富は国民の犠牲のもとに、そして金塊や違法薬物、バイアグラの密輸など、国際法の蹂躙の上に築かれてきた。
だが、正恩氏が祖父と父から継承したのは、富だけではない。長きにわたる残忍な圧政、凄惨な人権侵害という「負の遺産」も背負わされている。とうてい清算しようのないその巨大な罪が、正恩氏に政治的な負担としてのしかかり、ヤケクソ半分の暴走を加速させていると見ることもできる。
いずれ、そうした「人道に対する罪」の清算を迫られることになれば、正恩氏が自分の生い立ちを呪う日が来ることも、あり得なくはないのだ。
高英起(コウ・ヨンギ)
1966年、大阪生まれの在日コリアン2世。北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。北朝鮮問題を中心にフリージャーナリストとして週刊誌などで取材活動を続けながら、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に 『脱北者が明かす北朝鮮』 、 『北朝鮮ポップスの世界』 (共著) 、 『金正恩 核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』 、 『コチェビよ、脱北の河を渡れ ―中朝国境滞在記―』 など。